第2話 大切な仲間

「もう無理だ! もうこれ以上は送り出せねぇ!  今残ってるのは王都を守る傭兵だけだ! ここを踏破されたら終わりなんだぞ!? 騎士団の要請は却下しろッ!!」


「そ、そんなことしたらまた向こうの良いように使われますよ!?」


「あぁ!? 戦争中にそんなこと言ってる場合か!! とにかく却下しろ! いいな!? たっくこっちだって足りねえっつうのによぉ!」


「包帯と傷薬が不足してるという報告がッ・・・・今現地に届けに行ける人はいますか!?」


 あちこちで怒声や呼び声が飛び交っている。ここは王都傭兵駐屯地。思った以上にラトニア帝国の侵攻が早く、あと1ヶ月もしないうちに王都へ到着するだろう所まできている。

 ルイスは再び前線へ送られ、私は今回は王都の守り部隊へと配属された。この部隊に配属されているのは、前回の侵攻で戦功をあげた者か、かなりの実力者ばかりだ。

 かくいう私も活躍したせいか、今回は王都の最終兵器的な部隊への配属となったのだ。ここに配属されるというのは、実力を認められたというのと同義なのだ。


 ルイスとは前回バディを組んで戦ったが、なぜか離ればなれになってしまった。ルイスは私が傭兵になってから最も親しく、立派な戦友である。

 なのに、ルイスが前線にいるのに、私だけここで待ってるのはーー


「誰かッ包帯と傷薬の届けをーーーー」

「俺が行きます!」


「えっ・・・・・・」

「俺が行きます! 行かせてください! 誰もいないんでしょう?

だったら俺が行きます」


「ちょっと待ってください! あなたは王都守護部隊でしょう!? さすがに任せられませんっ!」


 彼は傭兵団長の補佐である団長補佐だ。彼は届けられた報告に応じて、団長の指示によってそれぞれ対応をしている。


「じゃあ団長許可をいただければ問題ないですか? 問題ないですよね! 許可もらってきます!」


「あ、ちょっーーー」


 あくまで団長補佐だから、団長に言うことには逆らえない。許可が貰えればこちらの勝ちだ。


 彼には悪いが、王都の守護は私の柄じゃない。ルイスがいれば変わったかもしれないが、ここにルイスがいないのなら、私が彼の所に行くのみ。


 コンコン


「団長ッ! 私が包帯と傷薬を届けて参ります! 許可を貰えますでしょうか!!」


「あ? リュアンか。いいぜ、誰もいないんだろ? 行ってこい!」


 意外とすんなり許可が降りた。


「あれ、いいんですか?」


「なんだ、却下すると思ってたのか? どうせルイスがあっちにいるから、とかいう理由だろ? お前のルイス好きは有名だからな、ははっ」


 とても的を射ている・・・・茶化して笑っているが、団長の目の下には濃いクマがある。戦争中は疲労が平常とは比較にならないほど襲ってくる。

 茶化してはいるが、団長も包帯と傷薬の重要性はわかっているんだろう。前線は特に負傷者が出やすい。もちろん死者も。


 あとは、私が、身軽さを利用した素早さを売りにしているのもあるだろう。乗馬も、貴族令嬢の時に母に教えてもらっていたため、他の下手な男たちよりも上手い。それに、女である私は体重も軽いから馬の負担も、男が乗るよりは少ない。団長も私が女であることは知らないが、諸々考えた上での許可だろう。


「ありがとうございます! では届けて参ります!」


「くれぐれも殺されないようにな。まあお前なら大丈夫だと思うが」


 返事をせず、一礼してから部屋を出る。

 殺されないようにな、お前なら大丈夫だろうといわれても約束はできないからだ。いくら実力があっても殺られるときは殺られるし、死ぬ。できない約束はしないのが、ここ傭兵団でのルールだ。


ーー自分ができない行動はするな。命あっての戦いなのだから。そして、できない約束をして余計に仲間を悲しませるな。


 つまり、

 ・自分の実力に見合った行動をしろ、それで死んだら元も子もない


 ・必ず帰って来いよと言われても、戦争では死ぬ可能性の方が大きいんだから、それで後で死んで、必ず帰ってくるって言ったのに、と仲間に言わせるな


 と言うことである。




 だから、家族との別れ際などでも、生きて帰ってきてねと言われても、必ず帰る、とは言えないのだ。この間、他の傭兵が、悔しそうに涙を流して仲間に話していたのを聞いてしまった。



「団長補佐殿! 許可を頂けたので、届けに行って参ります」


「わかりました。助かります。あっちの倉庫に備蓄されているものがあるので、それを持って行ってください。お願いします。どうぞ気を付けて」


 こういう切り替えが早いのは流石だ。


 早速倉庫で備蓄を袋にできる限り詰め、準備していた馬に乗せ固定し、素早く用意する。


 あとは届けに行くだけだ。ルイス、私もこれから行くから前線で頑張れよ。




ーーーーーーーーーーーー


ミリアが、そこまでルイスを慕っている理由はまた後ほど。


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