ホルマリンの中の脳⑤
平凡な中学生が、なぜこんなデスゲームに
ただ、この中学生の人生では、妄想というものが呼吸に近しいくらい当たり前ものになっていた。
それを評価されて、このデスゲームに参加したということだろう。
彼は、自分があくまで平凡だと思い続けている。
そんな彼の戦略はこのようなものだった。
自分のデスゲームに参加したという記憶を全て消し、完全なる部外者として振る舞う。
参加者探し合ってる者同士で、勝手に殺し合ってもらう作戦だったのだろう。
実際、彼はあの小説家より長生きしており、その戦略は半分正解していたのだ。
だがそのやり方だと、参加者を気にしないイレギュラーに対応できなくなってしまった。
現に彼は、無差別殺人テロリストに殺された。
彼はもっと自分に自信を持つべきだったのだろう。
彼の持つその妄想力は、このゲームだと本当に強力なものだったはずなのだ。
例え彼がいくら平凡だと自他ともに考えていようとも、私は彼のそんな類稀ない妄想力に敬意を評したい。
そしてまた私は次に脱落する参加者を待つ。
『参加者が一人死亡しました。残り参加者は五人です』
次なる参加者はTRPGプレイヤー兼TRPG作家。
私にはあまり縁のない職業であった。
彼はその界隈では有名なのだろう、とても多く稼いでいた様子であった。
しかし、彼の素性を知っている人間はそうそう多くないようであった。
自身のキャラクター自体を変えて、誰にも知られることのない彼にとって、まさにこのゲームは
このゲームは特定の人物を探すゲー厶なのだから。
そんな彼は、ゲームが始まるとすぐに、地下に潜り始めた。
自分という存在を地上から消したかったのだろう。
隠れるとしたらオーソドックスな場所だ。
その後彼が起こした戦術は、大量の人間を地上に作り、参加者を探すことであった。
これも素晴らしい発想力だ。
自分は地面に潜り、戦いは大量のダミーにやらせればいい。
とても理にかなった作戦だ。
更に彼は、地下でも情報収集を
テレビを設置し、違和感があれば即突撃。
ぬかりない情報網であった。
彼はそのテレビを使い、怪しげなテロリストを見つけた。
私もそのテロリストには見覚えがある。
さっきの中学生を殺した人物と同じ顔だ。
彼はそのテロリストと戦い、無事勝利。
しかし、アナウンス鳴らなかったようだ。
彼には残念ながら見落としが一つあった。
単純な考えなら他の参加者も考えているということ、つまり相手も同じように人形を使っていたのだ。
自分と似た戦法を見てしまった彼は、少し戦う時に慎重に動くようになっていった。
次に彼は、また参加者を見つけた。
例のあの小説家だ。
私は、ここであの小説家に起こった事件の真相の一部始終を知ることができた。
あの事件で彼は運に恵まれていたのだ。
私が脱落した時のアナウンスで、小説家の誤解を招かせることができたのだから。
あのアナウンスが鳴っていなければ、小説家が本腰を入れて本気で戦っていれば、小説家は彼に勝つことが出来たのだろうか?
結局それはたらればの話になり、どうなるかは分からない。
その後彼は、テロリスト本体の居場所を探しはじめた。
それらしい場所を見つけた後に彼は、そのテロリストの居場所を爆破。
その参加者を倒したかのように思えた。
しかし、テロリストは何事もなく普通に生きており、朝まで待ってやると宣戦布告までされてしまった。
その煽りを受けてからの彼はすごかった。
彼は、夜通し人間を作り続け、テロリストとの決戦に備えたのであった。
だが、そんな彼の努力もむなしく、その人間達は
そしてそんな戦いの
彼はテロリストに
そこからの流れは早かった。
彼は、テロリストとは関係のない別の参加者に場所を突き止められ、そしてそのまま殺されてしまった。
そう、その参加者も、地中に潜る作戦を考えていたのだ。
故に、彼の居場所が簡単に突き止められてしまった。
彼の敗因は単純だろう。
自分の発想したことなど、他人も既に思いついているという、そんな簡単な可能性を排除してしまったからだ。
だが人間を生成し続ける彼の発想も素晴らしかった。
このゲームの参加者は、発想力と想像力の高い人物が選ばれるのだから当然といえば当然ではある。
そんな人物の考えを、私は見ることが出来て幸せであった。
参加者は残り半分、ここから私に更なる発想力を見せてくれるのだろう。
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