ホルマリンの中の脳②
発明に取りかかる前に、作る必要がないものが二点存在することを
空間の超越と時間の超越。この二点の発明品だ。
前者は、このゲームにおいてなんら珍しいことではないものだからだ。
参加者はみんな瞬間移動を使え、生成した物質に限りはするが、物質も移動させることができる。
そもそも、物質を生成している時点で質量保存の法則の崩壊、空間の超越とも言えるであろう。
その状態であっても、もし既存物質の移動ができるのならば、現実としてそれはとても素晴らしいことなのだろう。
だが、いかんせん、制限があるとはいえ瞬間移動を簡単に行え、見ることができる状況だと、ありきたりで斬新さが薄れるというものであろう。
後者に対してだが、これはこのゲームにおいて不可能とされてしまっている。
『自分の時間の感覚も変更させることができない』
このルールの存在だ。
厳密には、自分以外なら時間を変えることができるのかもしれない。
だが私は、このゲームの秩序を壊してまで好きに発明するつもりはない。
あくまで今回は、アイデアを持っていて作ろうとしていたが技術的に無理だったもの、この一点だ。
その製造過程をこのゲームの主催者に見せることによって、私の望みは完成する。
私は作りたかった発明品に
ゆっくりと、思考回路を明かしていきながら。
この発明品というものは、この世界でなら完成させることは簡単だ。
だが、この発明品の本格的な実験を行うことは不可能なのだ。
これは主催者の目に届いてもらわないと始まらない。
この世界で本格的な実験が不可能な理由、それは、この発明品の機械には人生経験を持った人間の死体が必要不可欠であるからだ。
そればかりはこの世界でもどうしようもない。
ゲームのルールとして、人間が死んだら消滅してしまうからだ。
主催者側がこの発明品を見てくれているか、確信はないが大丈夫であろう。。
取引でその項目もちゃんと話しているのだから、主催者もこの発明品を見てくれているのだろう。
私は発明品を作っていく。
思考から出せば一発であるが、それでこれの構造が主催者達に理解されるかはまだわからない。
仕様を説明していきながら一個ずつ一個ずつ丁寧に作っていく。
小一時間が経過し、私はついに長年作るのを諦めていた発明品が完成した。
抽象的でなければ、ある程度の無茶が可能。
私は、この発明品を作るのに、この世界のルールにとても助けられた。
さてお披露目だ。
私はモルモット用の人間を作り、ちゃんと動作するかのテストを行う。
このテストの為の人間は、この実験に必ず参加することを先に命令しておき、それ以外は普通の人間として作っておいた。
実際問題、死体が無ければこの機械は何の意味もないのだが。
この機械には、生きた人間と死んだ人間がセットで必要なのだ。
死体は今存在しないが、この機械で生きた人間を使っても大丈夫か、本番で流れるであろう仮想電流で試させてもらおう。
私は、作り出した人間の脳に電極をつなぎ、実際に使ったときに流れると予想される電流を流していく。
ある程度時間が経ったら、その人間から電極を外し、様子をうかがっておく。
基本的な会話等を行い、無事を確かめられた。
私はほとんど普通の人間を作っている。
脳が壊れたらすぐわかる程度には。
次はさっきの人間を脳だけ生きている状態にし、会話を行ってみる。
無事成功だ。
私は現実世界では脳だけで生存する技術、そのくらいの発明はしていたのだが、主催者は知っているのだろうか?
次はその脳だけ生きている存在に、さっき発明した機械を接続して様子をうかがう。
電流を流した後機械を通じた会話をするのが主なテストだ。
これも何の問題もなさそうであった。
ならばこれで私のこの世界での役目は終わりだ。
このゲームのルールでは、ちゃんと仮死も死んだというルールになってくれているのであろうか?
死ぬまで意識が継続するルールにおいて、意識が無理矢理消えたなら、それは死の判定で合っているのであろう。
私は『脳以外が死に、脳も仮死状態になる薬』を作り、それを飲み干す。
もし私の推理が合っているのなら、これでこのゲームを脱落することができるはずだ。
私はゆっくりと意識を落としていった。
『参加者が一人死亡しました。残り参加者は七人です』
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