テセウスの人形⑥

最初、この世界には一億人のNPCがいた。

そして、俺はそんなNPCにまぎれるように人形を一つずつ作っていった。

時にはそれと全く同じように、時には新しく。

もう俺にすらも、そこら辺にいるNPC一人捕まえたとして、それが運営が作ったNPCか俺が作った人形かも把握はあくできていない。


細胞の代謝のように一つ一つ俺の人形へと変わっていく。

だが指令以外の行動は変わらない。

世界としては変わってないに等しいだろう。

古くなった船のパーツを一つ一つ変えていくように、俺はNPCを一つ一つ変えていっただけなのだから。


数の暴力を極めれば勝てない相手などいない。

数こそが最強の軍隊なのだ。

さてテロリストを迎撃げいげきする準備は整った。

日も登ってきて決戦の時だ。



早速人形からの信号だ。

だが発信された人形の場所がまばらだ。それに数も多い。

まあ相手もいくつかの人形を作っていたし、数の上ではこちらが勝っているからな。

まだ気にする必要はないだろう。


……妙だ。

人形が信号を送ってくるスピードがどんどん早くなっている。

人形にはテロリストを見かけたら攻撃する指令と、死んだら信号を送る指令を送っている。


相手もほとんどは人形だろ?

いくら俺がNPCに近い人形とはいえ、倒されるのが早すぎやしないか?

一体テロリストの本体はどこにいる?

そうしている間にも倒された人形の報告が増えていく。

そして、


『参加者が一人死亡しました。残り参加者は五人です』


参加者の脱落の報告。テロリストの攻撃によって倒されたのであろう。

俺はテロリスト本体を探すために、最初千里眼を使わず、人形のやられた位置で場所を特定しようとしていた。


流石にテロリスト本体なら人形を倒すスピードが早いだろうと、下手に見るより人形がやられていくスピードの差で、テロリスト本体を見つけようとしていたからだ。


だが、均等きんとう尋常じんじょうではないスピードで消えていく人形の報告だけじゃ収拾つかなくなった俺は、千里眼で状況を確認し始めた。


「一体どうなっているんだこれは」


テロリストが未だにどんどん無から増え続けているではないか。

それも日本全土で。

恐らく、増やしているスピードは俺よりも早いであろう。

まるで、テロリストの人形一人一人が独立してテロリストを増やしているかのようだ。



そんなテロリストどもに、ありとあらゆる破壊活動を尽くされ、俺のNPCは絶滅寸前であった。

だが俺は地下深くにいる。テロリストなんかには絶対に見つけられない。


そんな油断が俺のファンブルを起こしてしまったのかもしれない。

なんと、俺のいる地下室から、色の付いた有毒ガスが流れ始めてきたのである。


こんな芸当はあのテロリストにはできない。

俺は今までのプロファイリングからそう確信はしていた。


俺の目星スキルが狂っちまってた。

なぜこんな簡単なことに気づかなかったんだ、あのテロリスト以外にも参加者はいるではないか。

ここをどうやって見つけたのかは定かではないが、毒ガスならと俺はガスマスクを着ける。


だが、話はそう単純ではなかった。そう、俺が毒ガスに気を取られている隙に、部屋が少しずつ狭くなっていたのだ。

あと少し気づくのが遅れていたら俺は圧殺されていただろう。

だが、地上へは出られない。

地上はテロリストの地獄絵図となっているからだ。


俺は別の地面へと新しく部屋を作り、瞬間移動でそこへと逃げ込む。

『自分と自分が生成した人間以外の人間の半径50cm以内に物質を生成させることはできない』というルールだ。

だから今度は俺の半径50cm以内全てに壁を作っておいた。

これで潰れる心配はない。


そもそも場所も変えたんだ、この謎の参加者が俺を見失ってくれると助かるのだが。

だが事態はそう甘くなかった。

俺の作った壁はすぐさまみるみるうちに溶かされ、今度は身体を溶かすタイプの液体の毒が、俺の作った部屋に充満していく。


完全に目をつけられている。

もしかしたら地上に逃げたらクリティカルで助かったりするのだろうか?そんな目星はもう俺には振ることさえ出来なかった。

地下のどこに逃げ込んでも見つかり、地上はテロリストの巣窟。

俺はどこで出目を間違えたのだろうか。


毒が部屋を完全に覆い尽くす。

俺は、見知らぬところでファンブルを出したダイスの女神に怒りながら、人生に終幕を告げた。

『参加者が一人死亡しました。残り参加者は四人です』

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