哲学的NPCゾンビ④

結局、この日は一睡もすることが出来なかった。

そのおかげか、僕の妄想の練度は高く研ぎ澄まされていった。

特に、テロリストとの戦いには完璧に勝てるという確信がつくほどだった。


「行ってきまーす」


眠れないまま朝起きた僕は身支度を整え、朝食を食べ、学校へと向かう。

祭りでもあるのだろうか。

登校中、いつもより人が多いと、そんな風に感じた。


学校へと到着。

HRで先生が、昨日今日とテロリストの事件が多いので、もしこの学校にもテロリストが襲ってきた場合、この通りの避難をすること、と説明を始めた。


この状況は、僕としては願ったり叶ったりだった。

夜の間で完成した妄想。

ついに僕の妄想が報われるんだ。

こうなったら、絶対にそのテロリストを倒してやる。


とその前に、この学校にテロリストが来るなんて保障はないんだけどね。

登校中も人が多かったし、テロリストはこの街に来てないんじゃないのかな?

僕は学校にテロリストが来たときの妄想をしながら備えつつ、テロリストを待つことにした。


HRが終わり、普通に授業が始まった。

僕はテロリストを待ち続ける。

すると、


『参加者が近づきました。校内の参加者は警戒してください』


学校のアナウンスが流れた。

僕はこのアナウンスを初めて聞いたが、これは不審者が学校に入ってきたときのアナウンスだと確信した。


不審者情報アナウンス。

噂には聞いていた。

こういう類のアナウンスは、不審者を刺激しないように暗号が使われるのだと。


参加者という暗号。

意図は不明だけど、これはどう聞いても不審者のアナウンスだ。


慌てて逃げ回るクラスメイト達。

だけど僕は動じない。

ついに自分の妄想が報われる時が来たのだから。


この学校の中で近づいてくる銃撃音と爆発音。

もうすぐここにも来るのだろう。

僕は自分のシミュレーションを振り返りながら、今か今かと待ち続ける。


近づいてくる、獲物を見て回る足音。

狩られるのはそっちだと思いながら、僕の心拍数が上がっていく。

なめるような足音が教室で止まり、けたたましい爆発音とともに教室のドアが吹き飛んだ。


そう、ついに目の前にテロリストが現れたんだ。

僕は妄想を思い出しながら入ってきたテロリストを見つめる。

テロリストの手にはマシンガン。

大丈夫、いつもの妄想の通りにやれば。


「その目、もしかしてお前まだ俺様に勝てるとでも思ってるのか?それはやめておいたほうがいいぜ」


テロリストが語りかけながらマシンガンの乱射を始めた。

僕も対テロリスト対策妄想を実戦、開始する。


マシンガン、その挙動は全て覚えている。

相手が撃つ方向を予測しながら近くに回り込んでいく。

そして手が届く範囲まで、テロリストに近づけたらここでアッパーを食らわせ……あれ?


何か鈍く硬い音がした。

僕は確かに人体の急所を狙ったはずなんだ。

それなのにまるで鉄を殴ったかのような。


「へぇ、やるじゃねーか。また新しい戦い方ってか」


テロリストの全身から銃が出てくる。

どこから出したのだろうか、まるで0から生成したかのような。

こいつは普通のテロリストじゃない。

いや元々普通のテロリスト相手にも勝てたかどうか怪しいが、こいつは普通の人間じゃない。


僕がそのように狼狽えていると、テロリストの腕がガトリング砲に変わっていくのが見えた。

落ち着け僕、要は今まで妄想の中で避け続けてたガトリングと同じだ。

距離を取れば避けられないことはない。

そう考えて後ろに逃げると、そこに設置爆弾が置かれてあった。


待ってくれ、僕はその場所をさっきも見てるし、テロリストはそんなところに1回も向かっていない。

爆弾を置く暇なんて無かったはずだ。


無から急に爆弾が生えてきた。

そう考えるしかないレベルの不可解な出来事。

こんなもの、僕は一度も妄想したことはない。


そのままどうしょうもなく僕は爆発に巻き込まれ、意識が遠のいていく。

ああ、なぜ僕はこんなことになってしまったのだろう。


走馬灯が映り始める。

僕の知らない記憶だ。

なるほど、そういうことだったのか。


この世界はデスゲーム世界。

僕が何も知らないのは、の出来事が原因か。


『参加者が一人死亡しました。残り参加者は五人です』


そして話は、このデスゲーム直前へと戻る。


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