私は誰?
よしつね
プロローグ
この市で一番大きな駅は、休日の昼間にしては閑散としすぎているように感じた。
こんな印象を持つのは、きっと前にもここに来たことがあるからだろう。
しかし、その時の記憶を思い出そうとしても頭に霧がかかったように思い出せない。
それどころか、この駅の名前すら忘れていた。
おれはそんなに歳をとったかなあ、なんて思っていると、
「大丈夫ですか?」と後ろから声をかけられた。
彼は自分が心配されるような心当たりが全くなかったので、驚いてその声の主を怪訝そうに見つめた。
「いえ、あの、足を怪我しておられるようですし、服もぼろぼろだと思ったので。」
そこで初めて、自分が足を引きずっていることに気がついた。
そのことを意識すると、今まで気になっていなかったにも関わらず、猛烈な痛みが襲ってきた。
「あの、わたし看護師をやっているので、もしよければ足を見させてもらってもいいですか?」
彼女は樋口サキと名乗った。サキはこの駅の近くの整形外科に勤めていて、今日も出勤するところだったらしい。
彼ははじめそこに連れて行かれるのかと思っていた。
しかし、サキが向かったのはその建物の隣にある薄汚れたマンションだった。
どうやら彼女の住処はここにあるらしい。
「さて、そろそろあなたのお話も聞かせてください。さっきから私ばっかり話してるじゃないですか。教えてください。あなたがなんでそんな恰好をしているのかもね。」
どうやら彼女は知的好奇心を働かせているようだ。
そういえば名乗るのを忘れていた。いつものように自己紹介をしようと思ったが、何かとても大きな違和感があった。
「俺は—————」
そこで違和感の正体がわかった。思い出せないのだ。自分の名前も、何者なのか、どこから来たのかと言うことも。
私は誰? よしつね @Gikei
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