読めたのかい??

石倉 商兵衛

小説


 友達から、ホラーを書いたから読んでほしいと頼まれた。

 友達の彼は、推理作家だった。

 推理作家のくせに、ホラー小説とはまた奇怪なことをするものだと、僕は呆れ半分で彼の家へ向かった。

 彼の家は、木造平屋の民家だ。彼は今家に居ないが、玄関の鍵は、郵便受けの二重戸の裏に挟んである。合鍵だから、使えばまた元の場所に戻しておけばいい。

 玄関框を上がって、まっすぐ廊下を進み、居間に入る。彼はいつも、この居間で執筆をしていた。別に書斎があるというのに、やはり作家と言うのは変人な生き物なのだろう。

 彼の原稿は、基本的に出版社が預かっているが、彼が個人的に書いたものはこの部屋にしまってある。場所は、テーブルの天板の下。直近で書いたものは何故かそこに挟んで、次のものを書いたら桐ダンスにしまうという、訳の分からないこだわりを彼は持っていた。

 件のホラー小説は、案の定、天板の下にあった。

 天板を元に戻し、いつもの定位置。仏壇の前に座布団を敷いて座る。

 原稿の枚数は、多くない。というか、原稿用紙二枚で収まっているようだった。こんな文字数で、よくホラーを書き上げたものだ。

 静かな部屋で、紙の音だけを鳴らして読み始める。

 主人公は男だった。


 全く馬鹿げた話だ。死んだ友人の部屋を片付けるなんて。

 確かにあいつは不気味で、親にも気味悪がられていたけど、その親が唯一だからといって友人の私に部屋を片付けさせるだろうか。死んでもなお迷惑を掛けさせるとは、困った友人だ。

 渋々ではあるが、このまま放っておくわけにもいかないから、部屋を片付けていく。

 合鍵で入った家を、まずは居間から片付ける。すると、一枚の紙が出てきた。物語でも書いていたのか、文字がびっしりだ。


 ふと、携帯端末の画面上の時刻を見る。もうこんな時間か――いや、そんなに時間は経っていないはずだ。始まって、そんなに遅くない。

 紙の文字を読んでみる。物語だ。主人公が友人の家で物語を読んでいる。そしてその後ろから、友人がそれを眺めている。遺作だ。主人公が読んでいるそれは、死んだ友人の書いた遺作物語り。

 まて。

 それを読んでいる物語の主人公の後ろにも、死んだ友人がそれを眺めている。

 まて。

 彼は、いつ僕にホラーを読めと言ってきた。

 背筋は凍るが、冷汗は出ない。

 彼は、締め切りに追われていた。

 視線を感じる。

 彼は、友達は、死んでいる。

 締め切りに追われた末に、彼は自害した。

 彼が亡くなったとされたのは、一昨日だ。

 遺体の傍に、締め切りに間に合わなかった原稿が散らばっていたと聞いた。

 彼はいつ、この原稿を書いた。

 どうしてこのホラーの主人公の行動が、僕の訪問手順と酷似している。

 僕は、いつ彼にホラーを読めと

 視線を背後に感じ――


 やあ。きみ、それ、読めたのかい。










 いかがでしたでしょうか。

 初めて書いてみたホラー小説です。





 さて、私は生きているでしょうか?

 あなたは――――

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読めたのかい?? 石倉 商兵衛 @ishi5shou

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