ヒロインFlash Drive
Sニック
第1話 量子的存在
子供の頃夢を見た。
暖かい家族や恋人、青春でも良い。
偽りのない本心を語たり、笑ったり、泣たり、甘えたり、怒ったり。
互いに思い、守り、感情のまま過ごす。そんな美しい夢。
でも、純粋な時なんてそんなものだ。世の中を知れば落胆もするし、期待だって薄れる。
この世界は何時だって大人達に厳しい。何時だって虚しい。それでも。ゲームプログラマーは、デザイナーは、絵師は、シナリオライターは、そんな夢を
かく言う俺、
そのゲームの制作が一区切りつき、パソコンを閉じようとしていた。
「よし、テストプレイもしたし、今日はここまでにするか。」
1日のノルマを達成し、そろそろゲームも出来上がるだろうというところまで来たところだった。
その瞬間であった。彼女が現れたのは。
”現実ではあり得ない”と、あったとしても、それは虚像の夢であると鼻で笑いながら皮肉めいたゲームの中の、現実とは違う二次元の夢が現れたのは。
゛次元を飛び越えて、゛俺が
・・・・
「二次元が三次元・・・に?」
突如として画面から姿を現した金髪のキャラクター、
目の前の人物に対して、この不可思議な現象に唖然としていると、乃愛がよく通る声で、尋ねてきた。
「あなた、誰?」
「いや、誰と言われても・・・」
開口一番首を傾げながら誰?と尋ねられる。
そこは「ここどこ?」的なセリフが先行するのでは?とも思いながら、そのグラフィックの作りの精巧さに感嘆の声が漏れた。
「す、すご。」
(もしかして、最新のVR技術か?いや、そんなプログラムした覚えないし、そもそも出来ない。ハッキング?だとしたら、問題レポートが提出されるはず・・・。最近のハッキングは引っかからないのか?そもそも、こんな会話文入れてたっけ?)
「あれ、これ不味いのでは?」と、様々な不安要素が頭をよぎり、一気に冷や汗が吹き出す。
なにせ二年間丹精込めて仕上げ来た一作が誰とも知れない人間にハッキングされてパァーになりました。など許容できるわけがない。
咄嗟に腕を伸ばしパソコンのデータを確認するために電源ボタンを押そうとした。
ふにゅ。
迂闊だった。
そこにあったのは、ホログラムでもなく、データの塊でもなかった。
本物の肉体。女性にしかない神秘的な脂肪分。
「!?」
恋愛経験皆無の男から間抜けな声が漏れる。ないものとして判断していたものが、あるいみ予想外の展開で裏切ってきたのだ。
「触ら、ないで!」
「ふぐ!?」
思考を停止させておよそ
あるはずのない女性らしい、ふわふわで餅みたいな太ももの感触が指先に伝わった瞬間、そのおどおどした性格からは想像できない鋭い蹴り上げが、幸希の顎に炸裂する。
負傷部分は顎、腫れ上がるは顎。
「あ。」という台詞が上がり、捲し上げられたスカートの中が
「くま、さん…」
「……!きゃーーーー?!」
見事アニメのように宙を舞う幸希は、視界の隅に映り込んだかわいらしいソレと、美少女の悲鳴を最後に視界がフェードアウトした。
_______________________
「いった。」
起きてそうそう、顎に痛みが走る。
「あ、起きた。」
ちんまりとした雰囲気を醸し出し、体育すわりのまま上目つかいで幸希の安否を確認している。
「その。顎大丈夫?・・・その、蹴っちゃったし。でも、いきなりセクハラ、して来たあなたも、悪いと、思う。」
若干の罪悪感を感じているのだろうか、主張が弱い。
「いや、君の言うとおり、こちらが悪かった。ごめん。」
謝り返し、罪を相殺する。いや、できればいいのだが・・・
幸希がそういうと、頭を左右に振って否定し、「だいぶ強烈なのはいちゃったから。」と再度謝ってきた。
やはり、この子は彼女なのだろうか。
左サイドをまとめたつややかな金髪、女子高生にしては高身長であるも、それに反し幼さが残る整った顔立ち、人見知りの臆面を持ち合わせた人物。
宇城幸希はその特徴を持った人物を一人だけ知っている。
彩条乃愛
幸希が製作しているゲーム、『桜色』のヒロイン。
内気な性格で人との交流が得意でなく、不良に絡まれたところを、主人公
正直この設定は少々痛いが、そこをつぶれば
どうしよう、自分で作ったキャラクター設定を思い出して、悶絶しそうだ。
「一応君の名前を聞いておこう。じゃ、名前を教えてくれるか?」
「彩条乃愛。」
「やっぱりか。」
予想通りの返事に、ため息が出る。
どうやら俺は大きな厄介ごとに巻き込まれたようだ。いや、俺たちが巻き込まれたというべきか。
なんにせよ状況をつかめていない彼女にも説明するべきだろう。
「彩条さん、少し聞いてくれるかな。」
「な、なに?」
「君の現状について話がしたい。」
_______________________________
「__ということなんだ。」
「そ、そんな。」
彼女がキャラクターであること、彼女がこちらに来てしまったこと、制作者が幸希であること。パソコンの画面を彼女に見せながら、冷静に、端的に乃愛の状況を説明する
彼女にとって胸くそ悪い話である。自分が作り物で、本当の世界はここであると。
故に元に戻そう、と言いたいところだが、こんなキャラクターが画面からでてくるなんて前例、どこぞの有名な悪霊以外聞いたことがない。
「彩条さん、聞いておくけど、元の世界には戻りたいか。」
とりあえず彼女の意見を聞くことにする。
「うん。」
「まそりゃそうだわな、ただ、何とかする。と言いたいところだけど、正直めどはついてない。彩条さんは今、触れられる肉体を持っているから、向こうに戻れるとは思えない。」
あっさりと断言する幸希に、悲しそうな顔を浮かべうつむいてしまう。
「でも必ず元の世界に帰れるようにする。それだけは約束する。」
「ほんと?」
「ああ、ほんとだ。これでも教師なんだぞ。」
明確な方法などない、彩条乃愛の存在は不確かだ。データのみで構成されている電子的存在なのにもかかわらず、触れられる肉体を持っている。
把握できないことも多いが、彼女を作り出した者としての責任感か、はたまた同情か。どちらにしろ、宇城幸希は、彩条乃愛の助けになろうと思った。
「じゃ、こっちで生活するためにも、彩条さんの住民票つくりに行こうか。」
「え、唐突・・・」
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