第17-6話 自分のための提案

 賀川は自ら沢田先生に自分を退学にしてくれと言い放った。


 その瞬間は状況を飲み込むことができなかったが、賀川は俺たちをいじめた罪を償おうとしているのだろう。


「ちょっ、賀川君!? 私たちそんなこと一言も頼んでないけど!?」

「頼まれてなくてもこれくらいしないと今までやってきたことに対する罪は償えねぇだろ」

「償うも何も、私も紅ももう許してるんだからそれでおしまいでいいじゃん! 何でそんなところだけ律儀なの!?」


 いや、これが賀川本来の性格なのだろう。


 誰にでも手を差し伸べ曲がったことは大嫌い。


 そんな性格の賀川はこれまで自分が犯してきた罪を償わずに俺たちと友達になることはできないのだ。


 中学時代の経験から自分が孤立していじめられないようにということだけを考えていたせいで最悪になっていた性格が、ようやく元に戻っただけなのである。


「先生としては自分が受け持つ生徒から退学者を出したくないって本音はあるんだが……。賀川がそういうなら先生は止めねぇよ」

「ちょ、先生そこは止めてくださいよ!」


 沢田先生は当事者目線ではなく、第三者目線で今回の件について考えてくれたのだろう。


 沢田先生は賀川が俺たちにしてきた行為を把握している。

 その状況を勘案して賀川の処遇を検討するのであれば、退学も妥当だと、そう考えてくれたのだ。


「今まで散々酷いことしてきた俺にこんなことを言う資格が無いのは分かってるけど……さっき染谷に友達になろうって言われた時、嬉しかったんだ。俺だって染谷のことが嫌いでいじめてたわけじゃねぇし、金田しかまともに友達って呼べる奴がいねぇから」

「そ、それなら素直に――」

「そはだめだ。せめてけじめをつけてからでないと俺は染谷たちと友達にはなれない」


 蔦原は必死に賀川を止めようとするが、賀川の決意は固いようだ。


「ね、ねぇ紅からも何とか言ってよ」


 蔦原は俺に救いを求めてくる。


 そんな状況で俺は、誰のためでもない、ただひたすら自分の為の意見を述べた。


「ああ。退学でいいんじゃないか?」


 俺の意見を聞いた蔦原たちは目を見開き驚く様子を見せている。


「--ちょっ、紅!? 何言ってるの!? 賀川君を退学させる気なんてなかったんじゃないの!?」


 蔦原の言う通り、最初は賀川を退学させる気なんてなかった。


 しかし、冷静になって考えた末、俺の結論は変わったのだ。


「そうなんだけどさ。それじゃあ俺と蔦原が納得してもそれ以外の賀川からいじめを受けていた生徒は納得しないだろ?」

「ま、まあそりゃそうだけど、それじゃあ賀川君は学校からいなくなっちゃうんだよ!?」

「そうなるわな」

「だ、だからそれでいいのかって――」

「それじゃダメだと思ってる」

「話が平行線になっちゃうんですけどそれ!?」

「先生、賀川君の処遇について僕から提案があります」

「おう。言ってみろ」

「賀川君を、2週間の自宅謹慎にしましょう」


 全てを掴みたいと考えている贅沢な俺は、自分の思い通りの結末になるよう先生に賀川の2週間の自宅謹慎を依頼した。

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