第14-5話 退治1

 俺たちは沢田先生からの呼び出しを終え、教室へと戻ってきた。

 先生との会話が長引いてしまったため休憩する時間はなく、授業開始のチャイムが鳴り響きそのまま自分たちの席へと座った。


 朝の賀川の様子を見ていると、教室に戻って来た途端殴り掛かられるのではないかと思ったりもしたがそんなことはなく、すんなり自分の席へ座ることができた。


 こっそり賀川の席の方へと視線をやるが、賀川はスマホをいじって大人しくしている。


 大人しくしているのは嬉しいことだが、それはそれでまた不気味ではある。


 しばらくして教室に沢田先生が入って来て、日直の号令に合わせて礼をして授業が始まった。


「よーし、じゃあ今日は前回やった76ページの--」

「先生、ちょっといいですか?」

「……どうした?」


 授業を開始しようとしていた沢田先生に声をかけたのは賀川だ。


 賀川はニヤリと不敵な笑みを浮かべており、今から何かしてやろうと思っているのが丸分かりである。


「染谷君と蔦原さん、今日久しぶりに学校に出てきたばかりで授業についていけないと思うんですよ。そうなるとみんなの勉強の邪魔になるので、出ていってもらった方がいいんじゃないですか?」


 賀川は悪びれる様子もなく、あたかも自分が正しいことを言っているかのような顔で俺と蔦原を教室から追い出そうとしている。


 クラスメイト全員の前で堂々とそんなことが言える勇気があるのなら総理大臣にでもなれるくらいメンタルは強そうだ。


「2人には後で俺から遅れてる部分に関しては教えておくから」

「それって2人のことだけ特別扱いしてるってことになりませんか? 他にも勉強を教えてもらいたい人はいると思いますよ?」

「べ、別に特別扱いしてるってわけじゃ……」

「先生はそんなつもりなくても、特別扱いしてるって思われても仕方ないと思いますけどね」

「そ、それは……」


 いやそれ「いじめてる側はいじめてると思ってなくても--」てやつだろ。


 おまえには誰よりもいう資格のない言葉をよく普通の顔で言えるな。


 賀川は明らかに俺たちのことをターゲットにしてはいるが、俺はというと賀川の言葉に心の中でツッコミを入れられるくらい余裕はある。


 蔦原はどうだろうかと蔦原のいる席へと目を向けると、蔦原も俺の方に視線を向けていて目が合った。


 蔦原は余裕綽々と言った顔で俺にウインクしてくる。


 ははっ。


 これぞ俺たちが目指していた状況だ。


 蔦原さえいれば、どれだけ賀川からいじめられたとしても俺はもう不登校にはならないだろう。


「先生。僕なら大丈夫ですよ。家にいる時間はたくさんあったんでずっと勉強してました」


 困っている先生に俺がそう助け舟を出すと教室内から少しクスクスと笑い声が聞こえる。


「私も大丈夫ですよ。教科書一回見たら全部覚えられるんで、そのはんい成績はいいんで」


 蔦原の追撃で、教室内の笑い声は更に大きくなった。


「先生! すでにこいつらはこうやって教室内の輪を乱してるんですよ。今すぐ教室から追い出すべきです」

「って言ってもなぁ……。2人は大丈夫って言ってるし……」

「2人は大丈夫でも--」

「賀川」

「なんだよ染谷!」


 俺はもはや正当な理由もなく俺たちを追い出そうとしている賀川の名前を呼ぶ。


「お前の肩、蜂止まってる」

「は、蜂ぃっ⁉︎」


 俺の言葉に賀川はなんとも間抜けな声を出して見せた。

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