解決するか

 「知ってるよ」


 「そうだよね。なら、これから言いたいことも少し分かったりするんじゃない?」


 「いや、そういう察することは不得意で、全く分からないよ」


 一色と仲が良いだけで、それを理由に何を言われるかなんて予め理解している遥ではない。確かに一色と七宮の関係を良くして、更に進めるということは流石に分かるが、他に分かることなんて1つもなかった。


 「そっか。だったら、もし僕が頼み事をしたなら、その時は引き受けてくれる?」


 「可能なら受けるよ」


 絶対受けるとは約束しない。


 「それじゃ、一色さんはどういう人が好きなのか聞いてほしいって言ったらどう?ホントは僕が聞きたいけど、そんな勇気はまだないし、折角六辻くんが来てくれたなら任せたいんだけど……」


 その言葉を聞いて真っ先に思い浮かべた九重の顔。以前似たような頼み事をされたと懐かしさを感じたのは一瞬のことで、その願いを叶えることは得意とは言い難い内容だった。


 「分かった。任されるとするよ」


 けど、決して無理ではなかった。


 人の好みを把握することは、即ち自分にとっても相手の嫌がることを必然的に避けることが可能になるということ。人の苦手部分は、反転すると好きではなくとも苦手ではない部分ということになる。


 それを知れれば、相手の嫌がることを避けられるし、これからの関わり方が進歩することは間違いなかった。そんなメリットを得られると思い、遥は簡単に承諾した。


 「ありがとう。なるべく気づかれないよう聞いてくれると助かるよ。僕が言ってたとか言わないでね?」


 「言わないけど、ぎこちなかったら察せられるかもしれないのは理解してて。一色さんは賢いから、俺の違和感からすぐにそういうことかって理解するかもしれないから」


 「それは仕方ないよ。人に頼む僕の惰弱さが、学校側に成長が必要って思わせることになったんだと思うからね」


 成長のためなら、弱った自分に更に追い打ちをかけることも厭わない幽玄高校。第一学年は毎年安定の年と言われ、悠々自適に楽に簡単に問題なく過ごせるらしいが、それもいつまで続くことか。


 「いつか、自分から関わりにいけるよう成長はしたいよ」


 遥と似た願いを持つ人でも、感情はあるらしい。


 「馴れ初めって聞いてもいい?」


 「初めて会ったのは図書室。本を読むのが好きな僕は、中学と変わらず図書室で本を可能な限り読んでやろうって思って向かったんだけど、そこで偶然本を読んでる一色さんと会ったんだよ。話しかけようとは思ってなかったけど、姿勢良く静かに黙読する姿を見て、いつの間にか惹かれてて。その後、話しかけてから仲良くなったんだ」


 「自分から話しかけたなら、惰弱なんかじゃないと思うよ?」


 「違うよ。確かに僕は話しかけたけど、それは単なる興味から。僕が一色さんを意識して恍惚とする時が増えた今、一色さんに恋愛についての質問を、僕自身が気になることを聞けないことがダメなんだ。恥じらいなく、聞きたいことをハッキリ聞けるようになりたいんだよ」


 人は人の数だけ考えがある。その通りで、恋なんて知らない遥にとっては何故と思うことでも、七宮にとっては重要な懊悩なのだろう。


 好きな人だからこそ、恥ずかしくて聞けない気持ち。それを感じたことはない。誰にだって平等に関わるから、何を言っているんだ程度の思いしかない。


 しかし、恥じらいを持ってしまうことこそ、恋愛をしていると自覚する要因であることは勉強になった。


 「難しいね」


 「頭の中で意識すると、それだけ冷静に考えられなくなるんだよね。だから最近も、一色さんと関わる時は落ち着けない」


 (落ち着き……か)


 人を好きかもしれないと意識すれば、それだけで落ち着きが欠如するのか。だとしたら、それを経験したいと思うのが、未だに落ち着きしか持たない六辻遥の願いになるのだが。


 「それを乗り越えてこそ、僕は成長するんだろうけど、今はまだ六辻くんに頼ろうかな」


 「心の準備は簡単にできないからね。期間は5日間だけど、最善を尽くして力になるよ」


 「六辻くんが来てくれて助かったよ」


 また、魅力とかいうやつだろうか。もう正直魅力についてはどうでもいい。他人からの評価を気にしても、その気持ちを分からないし、他人は他人なりの価値観で遥と接触するから考えても無駄だ。


 「あっ、これから僕用事があるから、今日はここでお暇していいかな?」


 掛け時計ではなく、腕時計を見て確認した。スマホでもなかったから、それだけ読書が趣味として根付いているんだと分かる。本を読みつつ視点移動だけで時間を確認可能な腕時計は、読書が好きな人にとってスマートなのだろう。


 「良いけど、それは一色さんに関係してること?」


 「ううん。個人的な趣味の話だよ」


 「そっか」


 ならば、これから一色に接触する時間は確保できる。


 「それじゃ、また何かあったらいつでも来て。僕は昼休みと放課後に入って30分後以外にはここに居るから」


 昼休みと放課後30分以内が読書の時間だろうか。


 「うん。進捗報告は何か得られたらするよ」


 「ありがとう」


 そう言って、七宮は終始穏やかで、遥と似て優しさの包まれた性格を滲み出して会話を終えると、颯爽と帰宅していった。


 それを追うように、倉木も居ない三組に留まることはなく、一組教室に戻って一色の確認をしに行った。

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