七七七《ナナミ》さん

羊蔵

七七七さん


金が無いので言い訳屋をはじめた。

誰かが物を壊したとする。

そこへ「俺と出会い頭にぶつかって……」などと嘘の証言をしてやるのだ。

他人が間に入ると叱れないものだ。



ある時「七七七ナナミさんに謝りに行ってほしい」という頼みを受けた。

預かり物を紛失したのだという。

何を無くしたか訊いたが「生きもの」としか答えない。

とにかく「俺の車が事故った時に檻が壊れて……」という言い訳をこしらえた。


「いいよ、いいよ」

落ち合ったカフェで、七七七さんは気さくに応えた。

彼に関しては美しい男というほか形容の仕様がない。

「でも代償は支払ってもらいたいな」

彼は奇妙な条件を出してきた。

従兄弟の家から本を取り返してくれという話だった。

「実は手紙を挟んだままでね。中を見られる前に取り返したい」


不法侵入だし自分で行けばいいではないか。

断るべきだったが、依頼人が二つ返事で受けた。

「これは人質」

七七七ナナミさんは俺の携帯から根付を掏り盗った。


「犯罪だろ?」

後で依頼人を責めたが、彼は「でも七七七ナナミさんのいう事だから。お前も根付けを渡しただろう?」とラチがあかない上意味不明だった。


結局、地図を頼りに木造家屋を訪ねた。

「虚無への供物」を盗って来いという話だったが、家の前で当の従兄弟さんに見つかってしまった。

彼もまた美しいとしかいいようのない男だった。


気づくと座敷で茶菓子をご馳走になっていた。

俺は魅入られたまま事情を話してしまい、従兄弟さんは「もうあの男と関わってはいけませんよ」と優しくいった。

何だか親戚同士の諍いに巻きこまれただけに思えた。


友人は納得しなかった。途中で「もう一度行ってみる」と引き返していった。

それを最後に彼は消えた。

アパートには空の封筒が残されていたという噂だ。


「いいよー。貸しにしておく」

七七七ナナミさんは軽くいった。

根付けは返って来なかった。

今は「貸し」という彼の言葉が気に掛かっている。

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七七七《ナナミ》さん 羊蔵 @Yozoberg

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