第24話【爆走宣言】
時は来た。運命の体育祭、当日。
既に競技はほぼ終わり、あとはクラス対抗リレーを残すのみとなった。
点差では
「いよいよですわね......」
競技を直前に控え、円陣を組んでの最後のミーティング。
「なに柄でもないツラしてんだよ。お前は大将らしくドーンと構えてりゃいいんだよ」
「そういうこと。私たちができるだけアンカーの負担を軽くしてあげるから。あんたはいつもみたいに高笑いしてな」
『いいね？』と篠田が男性陣に声をかければ、全員困り顔ながらも『やるだけのことはやってみるさ』等と前向きな返事が。
この数日間。時間こそあまり取れなかったものの、その分充実した練習を行うことができた。
やる気の無かった男性陣が少しでも協力的になってくれたのは助かる。
「......わたくしとしたことが、この程度の緊張に飲まれて我を忘れるとは」
鼻を鳴らし、璃音は薄っすらと不敵な笑みを浮かべ、
「みなさん！ 特訓の成果を発揮する時がやって来ましたわ！ わたくしたちで、おごり高ぶっている湊軍団をボコボコのけちょんけちょんに叩き潰して差し上げましょう！」
「ボコボコのけちょんけちょん......きょうび日聞かないけど、このクラスらしくていいかも？」
「どこがだよ」
璃音の鼓舞に日向と篠田が乗っかれば、和やかな笑い声の中に
まさか璃音がまたこうしてクラスメイトと仲良くする日が来るなんてな。
勝敗関係無しに、今回の出来事は璃音にとって間違いなくプラスの出来事だったと思う――と、ダメだダメだ。こんなことを思って嫌なフラグが立ったらどうする？
今後の俺の学校生活の
「へー、雰囲気だけはいい感じに仕上がってるね」
準備に向かった６人を見送くるのと入れ違いで、湊がこちらにやってきた。
「雰囲気だけじゃないよ貴幸。ちゃんと実力だって仕上がってるんだから」
「ゴメンゴメン。でも仕上がってるのは俺たちも同じだってことをお忘れなく」
もう勝った気分でいる湊の涼しい顔面を今すぐぶん殴ってやりたい。
「なぁ湊。巨人って知ってるか？」
「プロ野球チームの？ 名前くらいなら」
「過去に４番を務めたスター選手が監督をすることが多い読売巨人軍。またの名をジャイアンツ。そんな巨人の監督たちは現役時代同様、さぞかし素晴らしい成績を残しているかと思いきや、実際はそうでもない」
「急に野球の話しなんかしてどうしたの？」
「まぁ聞け。メディアはあまり報道しないが、全体で見ると実際は成績が良かった人間なんていうのは片手で数えられる程度」
目を細め頷く湊。
「この事実から分かることは、能力のある選手が必ずしも監督して大成するとは限らない。むしろ過去の栄光に泥を塗るハメになるかもってことだ」
「言うね長月」
先に勝負と喧嘩を仕掛けてきたのは湊の方なのだから文句は受け付けない。
「僕が有能な監督かどうかは置いておいて。それを抜きにしてもみんな基本的に足は速いよ」
「口ではどうとでも言える」
「まぁまぁ！ 口喧嘩はこれにて終了！ 急がないと始まっちゃうよ？」
場外戦を繰り広げる俺と湊を、横で見守っていた日向が間に入り制する。
「そうだね。僕たちが不毛な議論をしなくても、結果はあと少しで証明される」
「悪い日向。湊が退学するかもしれないと思ったら、こんな奴でもちょっと名残惜しく感じてな」
「......え？」
誰が口論をやめると言った？
撃った側の人間は背後から撃たれる覚悟くらい持っておけ。
「分かるよ～。私だって中学からの長い付き合いだもん。いなくなると思うとやっぱり寂しいし～」
「あの......長月？ 僕が負けた時の商品は長月に対する接近禁止であって、退学じゃなかったはずだけど」
俺が日向にアイコンタクトを送ると、物分かりのいい彼女はノリノリで合わせてくれた。
「じゃあな湊。他の学校に行っても元気でな」
「貴幸のこと、わたし忘れないから～！」
茶番を演じる俺たちは唖然とする湊を背に、急ぎクラスの応援席まで小走りで戻った。
このくらいの冗談を言っても、別にバチは当たらないだろ。
振り返り一人取り残された湊を確認すれば、前に出した右手を所在なさげに彷徨わせ、困り顔でその場に佇む姿が映った。
それぞれのクラスの走者が位置につき、いよいよ運命の一戦が開始されようとしている。
クラス対抗リレーの走者は一クラス六人。
一人当たりの走る距離は１００メートル。
こちらは前半の三人を足の早い男性陣で固め、後半は篠田・浅川の順からアンカーの璃音に繋がる。
対照的に湊のクラスは女性陣を前半に集中させ、後半に男性陣を持ってくる真逆の戦法。
どんな思惑があるのか知らないが、優秀な選手が必ずしも優秀な監督とは限らないということを、あの年中ヘラヘラ顔の奴に教えてやりたい。
上空に向けられたスターターピストルの鳴る音を合図に、走者が一斉に走り出した。
先頭に躍り出たのはやはり湊のクラス。
スタートダッシュが成功したこともあってか、二位との差を大きく離しての疾走。
遅れてウチのクラスは三位。まだ充分巻き返すチャンスはある。
男性陣が全て走り終えたところでも、順位はまだ依然と変わらず。
しかし徐々に一位と二位との差を詰め、もう目前まで迫っていた。
「歩美頼む！！！」
第４走者の篠田が第５走者の浅川にバトンを託す。
練習の成果と親友効果のバフが相まって、受け渡しは無駄一つなくスムーズに行われた。
硬直状態のままカーブを曲がり、直線コーナーに戻ったところ。
浅川の目の前には、いよいよアンカーである璃音の後ろ姿が現れた。
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