最終話 遥が出した答え

「……」


 相手は私のほうをちらっと見て、通り過ぎようとする。


「死ね! お前なんて死んじゃえ!!」


 近くの場所から声がしたのでそちらのほうに振り向くと、そこには四人の男の子が群がっていた。


「そうだそうだ! 買うって言ったのに買わないのは嘘つきっていうんだぞ!!」


 見ているかぎり、一人の男の子が三人の男の子に言い寄られていた。


 思わず立ち止まってしまった。横にいる佐藤さとうさんもだけど。


「ぼ、僕……買う、って言ってない」


 おどおどしながらも、言い寄られている男の子が言った。すると、リーダー格らしき男の子が口を開いた。


「あ? それは俺に反抗するってことでいいんだよな?」


 言い寄られている男の子の境遇が少しまえの私の影と重なった。沙也加さやかに救い出されるまえの私。


 佐藤さとうさんも思うところがあるのかもしれない。私と同じで歩みを止めて争いのほうに目を向けている。


「どう思う?」


 ……自分でも驚いた。まさか私のほうから佐藤さんに話しかけるなんて。


「……似てる」


 一拍置いたあとに、佐藤さんが落ち着いた声で答えた。


「私たちに、似てる」


 どうやら佐藤さんもいじめっ子のほうに、少しまえの自分を重ねていたのかもしれない。

 だって、今目の前で行なわれているものは過去の私たちが行なったものそのものだったから。


 ――なら。言い寄られている男の子を救い出す者がこの場にいなければならない。

 かつての私が沙也加に救い出されたように。

 けれど、誰かがこの場に駆けつけて彼を救い出すような気配はない。


「いい加減買わないと殴るぞ」


 リーダー格らしき男の子がその顔と声に苛立ちを含ませて言った。


「ぼ、暴力は……」


 このままだと彼は本当に殴られてしまう。

 周りを見渡しても一瞬目を向ける人がいるだけで、誰も彼を救い出そうとはしない。


「うっ……」


 どうすれば……。

 違う、そうじゃないよ。


 ――私が彼を助けるんだ。


 沙也加がこの場にいない以上、沙也加の意思を私が受け継ぐしかない。

 佐藤さんはずっと眺めているだけだし。まぁ私もそうしているから彼女のことを言える筋合いはないけど。


「なにする気」


 私が彼らのほうに歩き出した途端に佐藤さんが言葉を漏らした。

 私は何も答えずに歩みをそのまま進める。


 沙也加。私はもう一人でも大丈夫。安心して北海道の学校に通ってね。なるべくすぐに帰ってきてほしい、っていうのが正直なところではあるけど。


 ゆっくりと歩み進めていると、リーダー格の子が私に気づき「誰だてめぇ」と強く睨んできた。

 この視線にはもう慣れた。今、後ろで眺めている佐藤という子のおかげで。


 ふと思う。沙也加も実は過去にいじめを受けたことがあり、あの時私を放っておけなかったのはそのせいなのではないか、と。


 私、強くなったよ。


 ──でも、パパに告白するのはまだ先かな。



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最終話までお付き合いいただき、ありがとうございました!

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次回作でまたお会いできることを楽しみにしています。







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【完結】いじめられていた私がJKデビューをしたら同じクラスの男の子から告白された件。でも、ごめんね。 ケンリュウ @hikigayahachiman

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