第64話 信じられない

「?」


 沙也加さやかがなぜいきなりそんなことを言い始めたのか、私にはわからない。


はるか、絶対近いうちにまた会おうな!」

「??」


 沙也加はさっきから何を言ってるの? 沙也加の言っている意味がまったくわからないよ……。


「どういう、こと……?」

「……」


 今度は沙也加が口を閉ざした。そして私の問いに答えずに扉を開いた。


「ちょっと待って」


 沙也加の手首を急いで掴んだ。このまま家に返すわけにはいかない。

 ここで沙也加を離したらダメだと、私の直感が告げていた。


「うっ……」


 私みたいな声を出したあとに、沙也加がこちらに振り向く。


「沙也加、もう私たちは会えないってことなの?」


 すると、沙也加が私の言葉を即座に否定してきた。


「いや、絶対に会える。会いにくる」

「会いにくる……? やっぱり会えないってことじゃん!」


 沙也加はどうしても誤魔化したいらしく、先ほどから私の質問に素直に答えてはくれない。


「なんで、もう、会えないの……?」


 むりむりむりむりむりむりむりむりむりむり。もう沙也加に会えないなんて……私、耐えられない。


「え、その、会えないっていうのはいつからの話……? 引っ越すの?」

「引っ越すというか、てんこう……」


 てんこう? ……てんこうって、転校……?


「なんでそんな冗談言うの。本当は転校なんてしないでしょ? 沙也加、今日はエイプリルフールじゃないよ」


 もう。沙也加ったら、なんでそんなテレビ番組のドッキリ企画みたいなことするのかな。


「昨日見たテレビにでも影響された? なんて番組か教えて。沙也加が影響されるほどの番組、家帰ったら調べてみるから」

「……」


 なんで何も言わないのよ。


「あ、私泣かないと。ドッキリとして、失敗になっちゃうよね。あはは。あははははは。……ははっ……んっ……」


 沙也加が口を開く。


「明日、北海道に行くんだ。今まで言えなくて本当に申し訳ない。私の父親がどうしても周りには言わないで欲しかったらしくてさ」


「……うっ……げほっげほっ……なん、で……嘘、つかない、でよ……」

「それに、私も直前まで粘りに粘ってたんだ。どうしても、今の学校を変えたくないって。何度も、何度も。あの頑固バカ親父を説得しようと試みた」

「もう、いいよ……。また明日ね!」

「遥!!」

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