第61話 ついに告白。
「ねえ……どうして、手を抜いたの……?」
そこでようやく
「その点に関しては素直に謝る。すまなかった……。でも、あたしだって手を抜きたくて抜いたわけじゃないんだ」
「えっ……」
そこで沙也加が恐怖のものをみるような目で自分の右手を見つめていた。
「あたしも
「なのに!!」と沙也加が叫ぶ。
と同時に、後ろからチリンチリンと音が聞こえてきた。
自転車が来たので道の端に避けながら、沙也加が「すまん。熱くなりすぎちまった」と私の後ろで呟いた。
「なのによ、なんでか本気で投げられてた『つもり』だったんだよ」
「つもり……?」
私は今一度沙也加の言っていることがよくわからなかったので、首を横に傾ける。
「ああ。いくら本気で投げようとしても身体がいうことを聞いてくれなかったんだ」
「くっ……」とそう発したあとの沙也加は下唇を噛んでいて、そこにはうっすらとどす黒い血が滲んでいた。
言葉だけでは足らずとも、その仕草や表情、動作で沙也加がいかに本気だったのかも否が応でも伝わってくる。
「本気、だったんだね……」
沙也加が首を縦に振った。
私は彼女から一度視線を外して朱色に染まった空を見ながら、ふぅ、と一度息を吐いたあとにもう一度沙也加の顔を見据える。
「わかった」
そう言っても、沙也加の表情が緩むことはなかった。やっぱり沙也加にはすべてがお見通しみたい。
私は、沙也加……そしてなによりも私自身が待ち望んでいる言葉を続けた。
「でも、私は納得できない。だから、来年もまた、私と一緒に同じ球技に出てほしい」
……いや、待って! そうだ……この方法だったら沙也加といくらでもスポーツで勝負ができる。
なんで今までこんな簡単なことに気づかなかったんだろう……、と思いながらその考えを口にする。
「ううん、それじゃ確実性がない。私は……私も、テニス部に入部する」
数舜驚いていた沙也加だったけど、すぐにニカっと笑った。
「おうよ! これからは同じテニス部員としてよろしくな!」
そう言って沙也加が腕を前に伸ばして拳を突き出してきた。沙也加のその拳に私の拳を突き合わせる。
「うん!! よろしく!」
けれど、拳を突き合わせるまえに夕日はすでに沈みきっている。
私は沙也加の笑顔の裏に潜む影を見落とさなかった。かといって彼女に何かを訊ねることもできなかった。
※※
家に帰り、手を洗ったり今日使ったものを洗濯機の中に入れたり諸々のことを終えて二階に駆け上がった。
扉を開けるとママが夕飯の準備をしていて、完成に近づいているのか香ばしい匂いが鼻孔をくすぐった。
「カレー?」
私がそう訊くと、ママが笑顔でこちらに振り向いてくれた。
「正解よ、さすがね。おかえりなさい
「うん、ただいま! パパは何時ぐらいに帰ってきそう?」
すると、ママはやれやれ、と言わんばかりの表情になった。
「本当に遥はパパのことが好きね」
「うん、好きだよ!」
私がそう発したすぐあとに一階から「ただいまー」と言う声が聞こえてきた。
――ついに、告白するんだ。
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