第56話 決着2
でも、なんで……ボールを投げたあとに
「残り二分です」
審判の声が響き渡り、
負けるのも時間の問題だった。かといって、私が沢西に加勢してボールを投げたってたぶん誰も当てられない。
私にできる唯一のことは、相手から飛んでくるボールをひたすらに避け続けることのみ。
沢西もだいぶ疲れてきているのか、息が上がっている。
このままだと――
「私も狙って!!!!」
自分でも驚くほどの声量が出た。それに口に出すつもりのなかった言葉。
観客も含め、全員が私のほうに視線を向けているのではないか、と思ってしまうほどに身体にとてつもない負荷がかかってくる。
「……残り、一分です」
相手チームのほうから私に向けたボールが真っすぐに飛んでくる。沙也加がそのボールを遮ることもなかった。
私は先ほどボールをキャッチしたときの感覚を思い出しながらそのボールをしっかりと見る。
「……あっ!」
けれど、ボールが膝に当たり、前に跳ねてしまった。
「まだだ――――!!」
沢西が横から腕を伸ばすも、ボールと彼の指先が触れあった。
スローモーションでボールがそのまま落下しているように見えるのに、かといって身体もボールに追いつかない。
そしてそんなスローモーションの世界の中、大して大きくもない音でボールが床にころりと着地する。
次の瞬間、ピピーっと笛の音が体育館内に響いた。
「……負けた、のか」
そう零した沢西の顔は、今まで見たことのないような「絶望」を象ったようなものになっていた。
――私のせいだ。
私が、あんなことを言わなければ。
外野にいた人たちが内野に集まってくる。
少ししてから
「礼!」
審判のその合図のあとに、ありがとうございました、と皆が思い思いに頭を下げた。
「ごめんなさい。私が余計なことを言ったから」
チームメイトの視線が鋭い矢のごとく私の身体に突き刺さる。
「違うぞ。
「そうだよ、ハルのせいじゃない。これは誰のせいでもないよ。でもね」
顔を上げると、私を責めるような視線を送っている人は誰一人としていなかった。
ただ、それぞれの表情から反省の色が窺えた。
「来年さ、このチームでもっかいリベンジしようぜ」
その沢西からの言葉に野暮なセリフを返す者はいなかった。
だから私も喉元まで出かかったその言葉を飲み下し、強く頷いた。
※※
私たちの試合は終わった。そして帰りたい人は帰ってもいい、ということを先ほど知った。
というのも、今日の球技大会。朝に出席を取ったきりそれ以降は出席確認はしないらしく、出席確認自体もチームの代表者がチームごとにまとめられた名簿にチェックをつけるだけで終わる簡易なうえに偽装をすることも簡単なものであった。
そして体育館の床に座りながらスマホを見ていると、私のもとに一通のメールが届いた。
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