第32話 担任の先生
「さすがだー。ということで、各種目の詳細については私の机の上にこのホームルームが終わり次第、置いておくから──各自必要な分だけ取っておくようにー」
そう言うとすぐに、先生が自分の机になにやら紙を並べ始めた。
「質問あるやつはいるかー? いなかったら朝のホームルームは終わりにするぞー」
その先生の問いのあとに、教室内は一気に静寂に包まれた。
「まあ、みんなの前で訊くのが恥ずかしかったりなど今訊けない理由があるやつもいるだろう。そういう人もそうじゃない人も今じゃなくてもいつでも質問してきていいからなー」
そう先生が言うと、教室内はカタカタッ! といった音などが目立つようになった。大抵の人は先生の机に向かい、先ほど先生が言っていた紙を取ったりしている。
そして、そうしたあとには教室を出ていく者も多い。なんせ次は教室移動が必要な授業だから。
「あっ、
私が隣にそう声をかけると、悠斗くんは動かしていた手を止めてこちらに顔を向けてくれた。
「どうかした……?」
「球技大会のチームを──」
そこまで言ってはたと気づく。これも前に置いてある紙に書いてあるかも。
「ううん、やっぱり何にもない。ごめんね、引き止めちゃったのに……」
悠斗くんはそんな私の言葉が引っかかったのか、なんか納得していないような口調で答える。
「それは全然大丈夫だけど……」
なんとなく気まずい空流れ出した、と思った私はもう一度前の先生の机に視線を向ける。
どうやらもう前に人はいないみたいだ。
「私、紙取ってきちゃうね!」
そう言って、悠斗くんの返事を待さんももうこの教室にはいないみたい。……というか、この教室に残っているのは私と悠斗くんと黒板の文字を消している先生だけになっていた。
「まだ紙、余ってるかー」
黒板の文字を消しながらも、先生が口を開いた。
一瞬、先生のその問いかけが誰に向けた言葉なのかわからなかったけれど、すぐに先生が話しかけてきたのは私なんだ、ということがわかった。
すぐ目の前の、先生の机の上に置いてある紙に目を向ける。
「はい、あります!」
黒板から目を離して先生がこちらに振り返る。
「ならよかったー」
「はい」と曖昧な返事を返そうと口を開こうとすると、先生の続く言葉が私のまだ声にもなっていないその返事をさえぎった。
「それで、北海道の形をそのまま模ったようなそのキーホルダーは、片桐からもらったんだろ?」
「……は、はい! でも、なんでそれをご存じなんですか?」
急なその問いかけに、一瞬先生が何について言及しているのかがわからなかったけれど、すぐにその節に思い当たる。
片桐……それは間違いなく私……ううん、私たちが一昨日に北海道のお土産としてキーホルダーをもらった体育の先生の名前だった。
「私も、あい……あの人に『これを貰ってくれないか?』って何度も懇願されたからなー」
そうだったんだ。まあ、私たちはそんな何度も懇願されたわけではないけど……。
「はぁ。私は生涯独身がいいって、何度も言ってるはずなのになー」
「え、今先生何て……」
私が先生に訊ねると、先生の顔が一気にギョッとしたようなものになる。
「あっ、いや、今のは……何にもないぞ?」
その先生の慌てぶりから察するに、先生自身も無意識のうちにその言葉が出てしまっていたことがわかった。
「わかりました!」
返す言葉がイマイチわからなくて、そんなよくわからない返事をしてしまったけど……ホントはさっきの言葉が気になって気になってしょうがない。
先生のプライベート……すごく気になる。
キーンコォーンカーンコーン。
「あっ、やばい。チャイムが鳴っちゃった」と呟くと、
「私に呼び出し食らってたって言ってくれていいぞー」と先生が言った。
「え、さすがにそんなことは……」
先生に責任が……。
「いいって、いいってー。なんだかんだいって、
先生のその気遣いを無駄にしないためにも、これ以上の押し問答はやめることにする。その代わり、
「ありがとうございます! ……悠斗く──あれ?」
振り返った先にいると思っていたはずの悠斗くんがいつの間にかいなくなっていた。
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