第23話 沙也加からの贈り物?

 沙也加さやかが両耳のイヤホンを外してくれる。


 すると、私の耳に大量の甘い声が舞い込んでくる。


「おかえりなさいませ〜♡ お嬢様♡」

「……」


 私が声も出せずに固まっていると、今度は私の両目を覆っていた布が失くなっていた。


「か、カワ──えっ、カワ……えっ! て、天使が……」


 可愛いの暴力とは、今私の目の前にいる人たちのことをいうのだろう、と私は瞬時に悟らされる。


「あ、ありがとうございます」


 私は誰に向けているのかわからないお礼を述べた。

 すると、私の少し後ろからフッと笑い声が聞こえてきた。


「あははっ! いや、はるか面白すぎだろー」

「ちょっと、笑わないでよー! 沙也加も私の身だったら絶対びっくりするよ〜?」

「まあまあ。じゃあ、メイドさんたちお願いしまーす」


 沙也加がそう言うと、私の両腕が急に天使さんたちにがっしりと掴まれてしまった。


「えっ! あ、え──死んじゃう……」


 やばい。私の体と天使さんたちの腕が接触しあって……気絶しちゃいそう。


「お、お待たせしましたー。こちらっ──も『萌え萌えキュンオムライス』にな、なりますっ」


 は、恥ずかしい〜! 


 見ているときには『私もメイド服を着て、可愛くなりたいなー』って思ってたけど、いざ着てみると恥ずかしさのほうが勝っちゃうよぉぉぉー。

 そんなことを内心で思っていると──


「ぐふぉっ!」


 その声とほぼ同時にソファに座っていた沙也加が、鼻から噴水のように勢いよく出る鼻血を眺めているみたいに顔を天井のほうに数瞬の間向けた。

 そしてそのあとすぐに、勢いよくテーブルに突っ伏してしまう。


「ちょっ! えっ、さ……さやにゃんお嬢様、ご無事でしょうか……?」


 すると、沙也加が机に倒れたまま微かな声で言う。


「……いや、無事じゃない。死んだ。萌え死んだ」


 私は沙也加のその返答になんて答えればいいかわからず、軽くスルー。


「あ、ありがとうございます。それでは、こちらにさやにゃんお嬢様のご希望の絵を……か、描き描きしていきたいと思います」


 その私の言葉を聞いて思いあたる絵があったのか、すぐに一言。


「遥で」

「へっ?……わ、私?」

「はい! 激カワ萌えキュン昇天必須な遥ちゃんでお願いします!」


 自分の肖像画は小学校の図工の時間以来描いていないんだけど、描けるかなー?


「ど、動物さんとかだと……」

「遥でお願いします♡」


 顎に両手を添えながら、ちょこんと顔に少し角度をつけて可愛さ満点で言う沙也加。


 もうっ。こういうときだけ可愛い仕草をしてくるんだから〜。

 沙也加がその気なら私だって、沙也加をキュン死させてやるんだから!


「わかりました。萌え全開で描き描きさせていただきます♡」


 そして、ぱちんと片目でウィンク。

 少し調子に乗ってウィンクなんかしちゃったけど、沙也加は───


「……」


 すでに気を失っていた。

 やったっ。効いてる効いてる〜!


「じゃあ、描き描きしていきますっ♡」


 言動こそ軽いけど、絵に関しては真剣に描かないと……。

 そう思い、心してテーブルに置いてあるケチャップを手に取った。


「……」


 先ほどまで気を失っていた沙也加も、私の手元を真剣な眼差しで直視してくる。

 そんなに見ないでぇぇぇー! と思うけれど、さすがにお客さまに対してそんなことは言えない。


「で、できましたよっ♡ さやかお嬢様♡」


 私が不安を抱えつつ、沙也加のほうを見てみると──


「……上手すぎねぇか?」


 少しドン引き気味にそう答える沙也加を前に、私はその真意を彼女に問う。


「お気に召さなかったでしょうか……?」

「いや、そうじゃねぇけど……今からでも少女漫画家目指したほうがいいと思うぞ?」

「あ、ありがとうございますっ♡」


 そう。私が描いた絵はどうみても私には似ても似つかない少女漫画に出てくるような目がとっても大きくて二次元美少女の私だったのだ。

 というか、これはもはや私という名の私じゃない。

 なぜこうなってしまったかというと、描いている途中で──


『……』


 うん? なんか、顔が二次元になってるような……?


『……』


 あっ……もうこれダメだ。やっぱり、私は二次元美少女しか描けないのね! 

 と描いている途中で気がつき、結局中学生になってからは封印していたはずの二次元美少女の絵を復活させるのに至ったのであった。

 すると、遠くから別のメイドさんの声がする。


「お帰りなさいませ〜♡ ご主人様ー♡」


 私も今はメイドさんなので、勇気を振り絞って声を上げることにする。


「おかえりな……えっ、パパ?」


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