第21話 球技大会?

 すると、つい今の静けさが嘘だったかのように教室内にざわめきが広がり始める。


「静かに……って言っても、無理か。よしわかった。じゃあ今から君たちに五分間周りの人たちと喋る時間をやろう」


 前から思っていたことだけど、私たちの担任の先生は私たち生徒のことをよく理解している気がする。


「よーい、始め!」


 その合図の少しあとに、黒板にキッチンタイマーみたいものがパシっ! とくっつけられた。


「これ以上は時間やらないからなー、話したい人とちゃん」

「先生! 移動してもいいですか?」

「おう、いいぞー。ただ、時間内に戻れなかった場合は……ペナルティを課すからなー」


 すると、その声の主がギョッとしたような声を上げた。


「え! ペナルティってなんですか!」

「それは、その時のお楽しみだ」


 ニヤっと嫌な笑みを浮かべた先生。


「や、やっぱやめよ!」


 先生の不気味な笑みを見て怖気付いたのか、席を移動することはやめたようだ。

 と、ふいに私の名前を呼ぶ声がする。


宮森みやもり〜!」

「えっ! 先生の話聞いてなかったの?」


 すると、咲島はヘラヘラと笑いながら、大して気にしてなさそうな顔で答える。


「いや〜、聞いてたよー! 聞いてたけど、時間内に戻ればいいだけだし? それに、あの先生なら許してくれるでしょ〜!」


 たしかに。あの先生なら許してくれてもおかしくはないかも……。


「聞こえてんぞー。普通に許さないから覚悟しとけよー」

「は〜い!」


 それでも、咲島は未だにヘラヘラと笑っていた。


 ※※


「残り二〇秒だからなー」


 先生は親切にそう皆に向かって教えてくれた。

 だからこそ、先ほど先生の発した『普通に許さないから覚悟しとけよー』という言葉の信憑性が増した気がする。


「そっか〜。宮森は弟がいるんだもんねー! それじゃあ、得意な球技も結構あるんだねー」

「うーん、そんなにはないけどね……」


 私がそう独り言のように漏らすと「うんうん」と頷きながら、咲島さきじまが今度は悠斗はるとくんのほうに目を向けた。


「宮森の彼氏は?」

「いや、彼氏では」


 すると、急に少し遠くから声が聞こえてきた。


「咲島ー! あと一〇秒ー!」

「おっ! じゃあ、咲島席戻りま〜す!」


 そしてそそくさと咲島は自分の席に戻っていった。

 その後少し経ったあとに、ピピピピッ! ピピピピッ! とキッチンタイマーらしきものが甲高く音を鳴らし始めた。


「はい、終了ー」


 先生がタイマーを止めながらそう発した。


「よし。じゃあ、後はクラス委員……そうか、あいつは休みだった。じゃあ、女子代表のクラス委員にバトンパスするぞー」

「え! ワタクシ、ですか……?」


 その不安が入り交じっている疑問の声に、先生はあっけらかんと言う。


「そうだ。逆に、君以外にこのクラスの女子クラス委員っていたか?」

「いえ、いないですけれど……」

「だろ?」


 すると、「わかりました」と言いながら、その人物が教壇の前に移動した。


「それでは。ここからはワタクシ、姫川麻乃ひめかわあさのが先生に代わり、この場を仕切らせていただきます」


 先生はそれに腕組みをしながら、感心しているような表情で「うんうん」と何度か頷いている。


「さっそくではありますが。先ほどの話し合いも兼ねて、球技大会の球技候補がある人はいますでしょうか」


 その声とほぼ同時に、何人かの手がパラパラと上に挙がり始める。

 そして、その中に私は含まれていない。


「では……ランダムに当てるのも不公平ですし、前の席の方から順番にお願いします」


 順々に前の席からクラスメイトが立ち上がる。


「バスケがいいです!」

「サッカー」

「野球なら授業でもやったし、皆も楽しめると思う!」


 など様々な意見が出され、黒板に姫川ひめかわさんの綺麗な字で球技の候補が書かれていく。


 手を挙げていた最後の人が意見を言い終え、姫川さんが声を上げる。


「他に意見がある人はいらっしゃらないでしょうか。もし、いないのであればこの中から種目を決めていきたいと思いますけれど……」


 私が再び黒板に目を移すと、そこにはこう書かれていた。


『球技の候補

 ・バスケットボール

 ・サッカー

 ・野球

 ・テニス

 ・ドッジボール

 ・バレーボール

 ・ソフトボール』


「……いないようなので、この中で多数決を取っていきたいと思います」

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