第7話 遥のパパ
「……いいのよ、
「……ぅ、ん……っ」
久しぶりに触れた、ママの温もり。やっぱりその中は、何年経っても私にとっては一番温かい場所に変わりなかった。
※※
「ただいまー」
パパの声が聞こえた瞬間に、私は部屋を飛び出していた。
「おかえりー!」
「お、遥か! わざわざ玄関まで送り迎えありがとな」
そう発したパパの服装は、やっぱり休日に家にいるときよりももっとカッコよくって。けれど、その服装とは裏腹に、パパ付近のあちらこちらからお酒とたばこの匂いがする。
「今日はもうお風呂、皆入っちゃってるから後はパパだけだよ! あとこれ部屋持ってっとくね!」
そしてさっき床に置いたビジネスバッグをパパの部屋まで運ぼうとすると、
「あっ、いいよ。自分でそのぐらいするから。遥は明日も学校なんだろ? なら、もう今日は寝たほうがいいんじゃないか」
「そうだけど、パパはいつも私たちのために働いてくれてるんでしょ? だったらこのぐらいはさせてよ」
それでも、パパは何故か頑なに私からの日頃のささいな感謝を素直に受け取ってくれようとはしない。
「いや、いいよ。その遥の気持ちだけ受け取っておくからさ。いいか、遥。自分にとってはいいことでも、それは必ずしも他の人にとってもいいこととは限らないんだぞ」
「……わかった。おやすみー」
「ああ。おやすみ」
私は悔しい気持ちと一種の疑問を抱えながらも、さっきのパパの言葉を聞いて何も言い返せなくなり、素直に自室に戻ることにした。
私のこの気持ち、どうしたらパパに伝わるのかな。
※※
「――朝よ。遥! 学校に遅刻しても知らないわよ!」
「……ん。いみゃ何時ぃ……」
ねむい。あと五分だけ。
「もう八時十五分よ!」
「えっ! もうそんな時間!?」
ママの『八時』という言葉を聞いた瞬間に、一気に私の意識が目を覚ましたのが自分でも感じ取れた。
「目覚ましはかけなかったの? 遥にしては珍しい……。まだ食パンはさっき焼き終わったばかりだから冷めてないと思うわよ」
「わかった」とママに返事をしながら、私は布団をさっと直した。そしてすぐに洗面台に行き、顔を洗ったり、髪に櫛を通したりする。幸い今日は寝ぐせがあまりついてなかったため、髪の毛に関してはいつもより時短ができた。他にも色々と準備して……。
黒いローファーを履いて、急いで玄関の扉を開ける。
「おはよー。ごめんね、いつもより待たせちゃってー」と言いながら外階段を降りる。
すると、私の声を聞いてか、スマホを弄ってた
「ういっすー。全然待ってねえし大丈夫だって――ん? おっ、爪の色変えたんだな! 前の色も超似合ってたけど、その色も超似合ってるじゃん。やっぱり、あたしの遥は何色でも似合っちゃうよなー」
「いや、そんなことないって! 沙也加のほうが何色でも似合うと思うけど?」
「お、まじ? あざーっす」
沙也加のその満更でもなさそうな笑顔は、いつもの彼女の口調からは考えられないぐらいにとてつもなく可愛い。
そして学校までの登校中、沙也加はいつも以上に上機嫌だった。
※※
放課後、私は学校から近いショッピングモールで沙也加ではない別の人物を待っていた。
ついさっきまで教室で会っていたはずなのに、普段より心臓の鼓動が速いのはなぜだろう……。
「あ、
そんな彼の声にふと視線を上げて言葉を紡ぐ。
「ううん! 全然待ってないから大丈夫だよ」
よかったー。昨日の今日とは言っても、教室の席も隣同士だから心臓の鼓動もすぐにいつも通りに戻ってくれて。
「じゃあ、行こ」
「うん」
それにしても、私を遊びに急に誘ってくれたのは一体何故なんだろう。たぶん、明日のこととは関係ないよね……?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます