前触れもなく


「あ」


 前世の記憶というやつが僕によみがえったのは、本当に唐突にだった。

 どこかで読んだネット小説のように事故とか何かで強く頭を打ったとかでもなければ、高熱で寝込んだとかでもない。


「そう言えばゲームや漫画の印象的なシーンと重なる光景や人物を見てってのもあったなぁ」


 僕の場合は最後のものですらなく、たまたま見た綺麗な景色を誰かに伝えたくなって、相手が今世の僕の全く知る筈もない人物だと気づいた時だった。


「あー、そうかぁ」


 前世でおばあちゃんっ子だった僕は、幼いころ自宅に帰るとその日の楽しかったこととか嬉しかったことなんかを報告するのが毎日で、祖母が故人になって自分が成人を過ぎた後も時々そうした思いを抱くことがあった。


「三つ子の魂百まで、いや今世と併せても合計百歳超えてないもんな」


 習慣や性分はそうそう変えられない。そもそも変えるつもりもないが。


「そんなことよりも、なぁ」


 今世の名前に聞き覚えがあり、嫌な予感を覚えつつ自分の記憶を漁れば、当たって欲しくない予感は見事に的中する。


「悪役転生って、おまっ」


 しかも将来のデブが確定している。きっと引きつっているであろう顔からはほっぺ、次に下腹、最後に二の腕を摘まんでみたら、みんなつまめた。


「うあああっ」


 それは現時点でぽっちゃり体系であるということでもあった。

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