番太小太郎と浪人昌良のヲカシ話

井田いづ

縫い包み

縫い包みぬいぐるみだ」


 あくる日の木戸番小屋にて、男が二人顔を突き合わせている。番太の小太郎と浪人の昌良まさよし──二人の間には借りてきた端切れが幾枚かと針と糸がある。


「おふささんの所のおきぬちゃんいンだろ? あの子にあげる人形をサ、作ろうと思ってな」

「些細はわかる。しかし、なぜ我らが?」

「ソリャ、昌良、おれたちが暇人だからよ。おふささんも忙しそうにしてたンでな。おふささんの方でも作るとは言ってたが、贈るものは多けりゃ嬉しいのが人間ってモンだろ?」

「わかるようなわからぬような……」

「いいから縫えって」

「仕方あるまい、このおれの腕を見せてやろうではないか」

「ヨッ、昌良、それでこそだ!」

「どうだ、おれとおぬし、どちらが上手いか競わぬか。背を向けて作って、出来たら見せ合うと言う寸法よ」

「ははあ、いいとも、後で泣き言を言うなよ!」

「こちらのセリフよ!」


そう言って、二人は端切れをちくちく縫い始めた。形を整えちくちくちくちく、中に詰め物をしてはちくちくちくちく、一刻(二時間)ばかり経った頃、どちらからともなく「できた!」と声を上げた。

 双方、首だけで振り返る。


「よいか」

「いいとも」


せーの、で二人は縫い包みを相手に突き出して、真顔になって、勢いよく吹き出した。

 それも当然、二人の力作はとんでもない人形だったのである。人形と言うには突起が多すぎるし、顔は福笑い状態でとっちらかっていて、なんなら詰め込むものを間違えたかなんなのかいやに凸凹してたりもする。かしゃかしゃと音が鳴るのは、古紙でも入れたのか。


「なんだソリャ!」

「いや、よくそれで自身満々だったな……」

「おれの台詞だよ!」


ふたりは腹を抱えて笑ってから、おふささんにこれを見せに行った。

 下手くそなふたつの縫い包みだが、意外とおきぬはこれを気に入ったらしい。母から貰った人形と合わせて、よく一緒にお出かけをしているそうな。

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