小悪党ノートと裏切りの少女 14
スタンピードが発生して、一体どれだけの時間が過ぎただろう。
ノートはそんなことを考えながら、息を整えていた。
「はぁ……はぁ…………」
「ノート!ぼさっとしない!モンスターは待ってくれない………………わよ!!」
エレノアはそう叫んで高速で炎の魔法をノートへ放つ。
ノート…………正確には、近づいてきたモンスター目掛けて放ち、一瞬で灰にする。
「はぁ……はぁ……悪りぃ、た、助かった…………」
「お礼はいい!それよりも私の近くに寄りなさい!」
「はぁ……はぁ……あ、あれか……」
ヨタヨタとノートはエレノアに近づき、確認したエレノアは一瞬で魔法陣を展開する。
「フレアドーム!!」
大きな炎の膜がエレノアを中心に展開される。
周囲にいたモンスターたちは一気に灰か大火傷を負い、悲鳴をあげている。
「さらに展開…………バースト!!」
そう唱えると、ドームは破裂し大爆発が引き起こされる。
これで一気に広範囲のモンスターたちが消滅する。
対複数人に向いた炎の魔法だった。
「な、何回見ても……とんでもねぇ威力だな……」
「ふぅ……でも、キリがないわ」
今の一撃が初めてのフレアドームではない。
もう三回目になる。
それでも、モンスターは一向に減らない。
流石のエレノアも消耗してきている。
呼吸が乱れ、汗も大量にかいている。
「あ、アーサーたちも……流石に動きが鈍ってきたか?」
最前線で戦っているアーサーとシエラも消耗具合が不安だった。
常に動き続け、モンスターに剣を振り続けている。
しかし、いかに超人的な身体能力を持っている二人も、動きのキレに鈍りが見え始めていた。
未だに激しく動けていることに、ノートとしては驚愕なのだが。
だが、徐々にモンスターがアーサーたちを突破して、後ろに控えている冒険者たちにも戦いが余儀なくされている。
「うりゃぁ!!」「が、はぁ!?」「う、腕がぁぁあ!?」
「傷薬寄越せぇ!!」「こっちも足りない!!」「ほ、補充してくる!!」
こんな悲鳴や怒号がノートの耳にも届いてくる。
後ろの冒険者たちの防波堤が崩れ始めている。
「ま、まずいな……後ろが」
「えぇ……私が後ろのカバーをすべきかしら?」
「そうなると、アーサーたちの負担が大きくなりすぎる……ここが崩壊するのはダメだろ」
アーサーとシエラが崩れると、後ろの冒険者たちでは対処しきれない。
すなわち、ウィニストリアの街に甚大な被害が出ることにつながる。
「……手詰まりね。原因をなんとか潰すしかない、ということね」
「あ、ああ……とりあえず、アーサーたちに薬を届けてくる。援護よろしく!」
「………………仕方ないわね」
「そこは即答してくれよ!?」
ちょっと不安になりながら、ノートはアーサーたちの元へ走っていく。
さっきの小休止で体力が多少回復した。これでなんとか動ける。
アーサーとシエラが戦う場所に行くと、思わず足が止まってしまうノート。
「イストリア流『神風』!!」
「はぁ!…………ウィンドスラッシュ!!」
アーサーとシエラの剣と魔法の暴力がモンスターたちを葬り続ける。
鬼気迫る二人の迫力、それでも減らないモンスターたちに恐怖を感じてしまうノート。
「「はぁ……はぁ……はぁ……」」
二人とも肩で息をしている。
このままでは体力が保たない。
「おい二人とも!これ飲め!」
「……あ、し、師匠……」
「や、やぁノート……体力増強剤、か……」
「気休めだけど、多少は体力が戻るぜ。翌日以降に筋肉痛とか酷いけどな」
「は、ははは、助かるよ…………」
モンスターたちが二人の周囲にいなくなったタイミングを見計らって、ノートは近づいて薬を渡す。
二人が受け取り飲んでいる間、ノートは魔弓ヒュドラスを放ってモンスターたちを近づけさせない。
ヒュドラスの闇の気配が、モンスターたちを遠ざけてくれるため、当たらなくても効果がある。
(この弓、本当に売らなくて良かったな。いい拾い物になったぜ…………まぁそもそも売れないんだけど)
「よし!元気いっぱい!ありがとうノート!」
「ありがとうございます、師匠!!」
「元気になったらキリキリ働け!」
「ははは、そうしたいけど……このモンスターの数はちょっぴりゲンナリだね」
アーサーも精神的な疲労が蓄積し始めた。
未だにスタンピードの終わりどころか減退も見られない。
大波の如くモンスターたちが押し寄せ続けている。
少し体力が戻ったアーサーとシエラは再び剣を抜いて駆け回り、モンスターたちを倒し続ける。
ノートも逃げるために走りまわり、たまにヒュドラスの弓を放っている。
そんな大きな二つの力と一つのか細い力でも、モンスターの波は途切れない。
そして三人とエレノアが討伐し損ねたモンスターたちが他の冒険者たちを襲う。
このままでは数の暴力で防衛線が全て保たなくなる。
「このままじゃ保たない…………やはり原因を潰すしかないね!」
「原因……それって何ですかね!?」
モンスターたちを討伐しながら、シエラとアーサーが話をしている。
ノートは必死でモンスターから逃げているので、話をする暇もない。
会話ができる
「原因の断定はできないけど、やっぱりダンジョン内にあると思う!」
「そ、それはわかりますが……それでどうしろと!?」
「二手に別れよう!ここでこのまま戦う二人、ダンジョンに侵入して原因を突き止めて解決する二人に!」
二人と二人?
この言葉を聞いて嫌な予感がしたノートはようやく言葉を放った。
「お、お、おい!二人って……オレもか!?」
「……?当たり前じゃないか?何を言い出すんだい、ノート?」
さも当然そうに言うアーサー。
シエラもノートの疑問がわからないようで、不思議そうにこちらを見てくる。
「師匠、何でそんな疑問を持ったの?」と言いたげでイラっとするノート。
「ざ、ざけ……んな!…………はぁ、はぁ……こ、こんなか弱いオレを、メンツに入れるな…………はぁ、はぁ…………」
逃げ回って息も絶え絶えになりながらも、ノートは懸命にクレームを入れる。
「そりゃぁここにいるんだから、キミもどちらかになるだろう?」
「も、もう体力がねぇんだよ!?……はぁ、ぜぇ…………街に戻らせろ!そっちの防衛に回してくれ!…………うっぷ」
吐き気もしてきた…………ように見せて限界アピールをするノート。
他の冒険者が見たら「こいつ……もうダメだ」と思うところだが、アーサーは違う。
「それはないよ!というか、キミはダンジョンに行く一人にすることは最初から決めていたからね?」
「ぜぇ……ぜぇ…………ぇ!?」
もう言葉での反応はできないノート。
アーサーは続ける。
「そもそも最初からダンジョンに潜ることは決めていたよ?このスタンピードの原因はダンジョン内にある可能性が高いことは簡単に予想がつくんだから」
「ぜぇ……ぜぇ……ま、まぁ……」
「そうなると、当然ダンジョンに行くメンバーを決める必要がある。そして、キミは最近あのダンジョンによく潜っていただろう?だったら一番あのダンジョンの知識があるからね」
「…………ぃ!?」
アーサーのいうとおり、真っ当な意見に何も言えないノート。
「それに、キミはダンジョンの知識は僕とエレノア……Sランク以上だからね。絶対にダンジョンに潜ってもらうよ」
そして、相変わらずノートの評価が高いアーサー。
ノートは本当にそれをやめてほしいと考えていた。
そのせいで今も面倒ごとに巻き込まれているのだから。
「不本意ですが、私もアーサー様に同意見です」
四方に魔法を放ってモンスターを討伐しながら、エレノアも近づいてきた。
アーサーの言葉に同調したため、ノートは文句を言いたかったがその前にアーサーに報告をしてきた。
「アーサー様、先ほど冒険者の一人がきて協会からの報告がありました」
「うん?それってダンジョン近辺の調査の件?」
「はい、報告によると三組の冒険者パーティが潜っているみたいですね。目撃情報があったみたいです」
そこまで言ってエレノアはシエラを見る。
「そのうちの一組は、貴方がかつて所属したパーティだそうよ」
「え、ヴァレイたちが!?」
聞くや否やシエラはすぐに駆け出そうとした。
察知したアーサーがすぐに手を掴んで阻止したが、ジタバタと暴れている。
「落ち着きなさいシエラ」
「話してくださいアーサー様!早く助けに行かないと!!」
「え、助けに行きたのか?」
ノートの疑問の声にシエラはピクッと反応して静かになる。
「お前を裏切った連中だぜ?この間も散々馬鹿にして、感じ悪かったし…………オレだったら助けないね」
「ノート……」
正直すぎるノートの言葉にアーサーは苦笑する。
エレノアは無言でモンスターたちの討伐をしている。
しかし、今回はノートに何も言わない。同感だったから。
「…………」
シエラは言葉に詰まる。
ノートのいう通りだった。
もう関わりたくない連中。無視をしてもいい…………心のどこかで小さな自分が叫んでいるように感じる。
しかし、それでも――――
「助けを求めているなら、助けたい。それに…………」
そこで再び言葉を詰まらせるシエラ。
脳裏には、一人の魔法使いの少女――――ヴァレイの存在。
あの嫌なパーティの中で、唯一の救いでもあった幼馴染。
幼い頃に両親を亡くしたシエラにとって、家族とも言える存在。
「…………また話をしたい相手がいます。他はまぁついでですね」
「助けたいやつだけでいいんじゃねぇの?」
「確かに……ノート師匠の言った『自分の命を危険に晒す』までは無茶しませんよ」
「でも……」と続けてシエラは真っ直ぐにノートを見る。
「その直前までは無茶しますよ。相手が誰でも、見捨てません」
これが、かつてノートの話を聞きアーサーやエレノアと行動を共にして成長したことで出てきた、シエラの答え。
才能溢れ、愚直とも言えるほど真っ直ぐな心を持った――眩しい決意。
アーサーは笑い、エレノアは満足そうに頷く。
ノートは、眩しそうにシエラを見る。
「いい答えだね!さすが僕たちの弟子だ!!」
「そこまでの決意があるならば、もう一人のダンジョン潜入はシエラね」
「はい!必ず全員助けます!!」
そこでシエラは少し不安そうにノートを見る。
自分の答えは、ノートの嫌いな『綺麗事』と思われていると感じているのだろう。
(実際に綺麗事だよな………………でも、それを叶えられる稀有な存在もいる。アーサーやエレノア、そして
『天才』って連中が)
ノートはため息をついて、シエラの頭をガシガシっと撫でる。
「わわわ…………え、えぇ?」
「……つまり、見下していた連中を助けて精神的に優位に立って、馬鹿にし返そうってことだな?」
「全然違いますよ!?………………でも、それも悪くないかもしれませんね」
そう言ってシエラは清々しい笑顔を浮かべる。
エレノアは「ノートの悪影響が……」と嘆き、アーサーは面白そうに笑っている。
「さぁて、じゃあ改めて確認するけど、ノートとシエラがダンジョンに潜って原因を何とかするってことでいい?」
「はい!」
「ああ」
ノートが素直に頷いた。
先ほどアーサーの提案を強く拒絶していた時とは打って変わって。
シエラの気持ちを聞いて感化されたのかな?と思い、アーサーもエレノアさえも何も言わなかった。
それもある。
だが、もう一つノートは懸念していたことがあった。
(オレの仕掛けたトラップ部屋…………あの奥が開放された、なんてことは…………ないよな?)
奥で感じた嫌な気配。
『強い』と同時に感じた『不気味』な気配。
スタンピードの話を聞いた時からずっと考えていた『原因』――
そして、その原因の開放が自信が仕掛けたトラップの誤作動の可能性もある。
その心配があったのだ。
(そうなると、オレの責任として追求されたり…………そのリスク、あるか?)
その一点が不安でしょうがない。
だからこそ、危険だがダンジョンへ潜って確認が必要だった。
(一回アーサーの提案を拒否して、シエラの青臭い話に乗っかった形でのダンジョン侵入…………不自然じゃない、よな?)
ずっと自分に不利益にならないように色々と計算をしていたノート。
一人だけスケールの小さなことをしている。
「よし、じゃあ作戦開始!頼むね、二人とも!!」
「シエラ、無理はしないでね?」
「はい、エレノア様!……ノート師匠、行きましょう!!」
「張り切りすぎて、足引っ張るなよ?」
「はい!よろしくお願いいたします!!」
妙に格好をつけいているノートだが、頭の中はダサいことを考えている。
正反対な思いを抱きながら、二人は危険なダンジョンアタックを開始した。
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