小悪党ノートと裏切りの少女 13
スタンピードの最前線に立っているアーサーたち。
アーサーとシエラが疾風のごとく駆けてモンスターを一気に攻め倒す。
「イストリア流剣技『疾風』!」
特にアーサーはさすがだった。
一度剣を抜けば一瞬でモンスターが何体も斬り飛ばされ、神速の剣から発生するかまいたちで更に多くのモンスターが吹き飛ばされる。
アーサーのすごい所は、剣技を放った後も隙を生じさせずに動き続けること。
アーサーの周りには、常に血飛沫が途切れることなく舞っていた。
「ハァア!!」
シエラも負けていない。
自力の身体能力で駆け抜けながら剣を振ってモンスターたちを斬り倒す。
さらに――――
「風魔法……ウィンドスラッシュ!!」
剣を抜きながらも魔法も駆使して戦っている。
アーサーとエレノア、二人からの師事の賜物だった。
「すげぇな……アーサーは言わずもがな、シエラもあそこまでとは……」
アーサーとシエラの無双によって、エレノアとノートは現状することがない。
だから、どうしてもこのような雑談が発生してしまう。
「貴方、シエラと何度かダンジョンへ行ったのでしょう?だったら実力はわかっているはずじゃない?」
「シエラにとって格下ばっかり、相手の数も一度に多くて四体くらいだったからな〜。ここまで本気で動き回っているのは初めて見た」
「ああ、なるほど。貴方とシエラの実力を加味したら、あの子以上のランクのダンジョンには潜れないか……」
エレノアは腕組みをして弟子の動きを見守っている。
まるで親が子を見守るような視線だ。
「まるで母ちゃんみたいだな、その目」
「……私が老けていると?」
「ち、違うよ!?勝手に勘違いしてキレんなよ!!っていうか、ほら、向こうも第二陣が来たぜ!!」
「…………本当にその感知能力は見事だわ」
エレノアは目を細めてノートのいう通りであったことを理解した。
すぐに魔力を活性化させたエレノアは、風魔法を駆使して大声を出す。
「モンスター、第二陣が来たわ!!総員、注意して!!」
エレノアの声を聞いて、シエラはすぐにバッと第二陣の方角を見る。
そして、アーサーに視線を向ける。
アーサーもシエラの視線に気がつき、頭をコクリっと縦に振る。
その返事を受け、シエラは魔法を放つ。
「多重魔法陣展開……『プラズマリボルバー』!!」
複数の雷がモンスターの第二陣に放たれる。
これだけで何体ものモンスターが崩れ落ちた。
「あら、あの子いつの間にあんな魔法を覚えたのかしら?」
「え、アンタが教えたんじゃねぇの?」
「確かにあの魔法の存在は教えたわ。でも唱え方や使い方は教えていないし…………自力で習得したのかしら?」
「マ、マジかよ……天才すぎんだろ……」
感心を通り越して呆れてしまった。
だが、呆れている暇はなかった。
第二陣から、空に向かって飛び立つモンスターが現れた。
次々と飛び立ち、空から街へ向かおうとしている。
「ほらノート、私たちの出番よ!あの空のモンスター達を撃ち落とすよ!」
「う、うえ!?そんなの当たらねぇよ!!」
「あら?あの程度なら余裕でしょ………………多重魔法陣展開『グラウンドフラワー』」
エレノアの周囲の地面から多くの魔法陣が現れた。
すると、地面は隆起し空のモンスターをぐるぐると巻き締めた。
まるで植物のツルようだった。
「さらに…………『グラウンドフラワー、満開』」
エレノアの号令でモンスターに巻きついたツルは成長し、やがて土でできた花が咲き誇った。
締め上げたモンスターはその勢いで肉体を弾けとばせて事切れた。
「うわぁ……やってること、えっぐいなぁ…………」
「まだ終わらないわ。満開の後は花弁は散るのみ…………はじけろ!!」
さらなる号令と共に、土の花弁は勢いよく弾き飛んだ。
さらに飛来してくるモンスター達目がけて飛んでいき、撃墜をしていった。
たった一人で、いったい何体のモンスターを倒したんだろう?
その恐ろしい威力と広範囲に、ノートはゾッとする。
「あんた、『炎姫』って言われているのに炎以外もメッチャ使えるじゃん…………」
「無論、得意なのは炎の魔法よ?他の魔法も知識があるから使えるけど、炎系統に比べて応用力に乏しいわ」
レベルが違いすぎる話だった。
ノートにはついていけない。
ノートが呆然としている中でもエレノアは空からのモンスター達を次々と倒していく。
その様子を見て、慌ててノートもヒュドラスで弓矢を放つ。
だが、全く当たらない。
そもそもの弓の熟練度が低いので仕方がない。
なんとか陸にいて、アーサー達の隙間を掻い潜ってきたモンスター達を倒しているが、大火の中に数滴の水を注ぐような効果しかないように感じる。
そうこうして、第二陣もアーサーパーティのところで全てのモンスターを堰き止めている。
後ろからは歓声が聞こえる。
相当な安心感があるのだろう。
ノートは羨ましかった。
(オ、オレも後ろでのんびりしていたかったのに…………くそ、メッチャクチャ怖い!!)
だが、その余裕もすぐに終わってしまう。
「だ、第二陣もなんとかなりそうですね……」
「シエラ、油断はダメだよ。スタンピードはこれからなんだから」
「え?……………………!?」
アーサーの言葉に疑問を覚えたシエラだったが、目の前の光景を見て理解する。
先鋒、第二陣とは比べものにならない程の大量のモンスターの波が見えてきた。
「え……あ、あんなに……!?」
「そんなにダンジョンにいるのかよってなる程のモンスターの量…………それがスタンピードの本当の恐ろしさだよ」
とは言ったアーサーだが、想像以上にモンスターの数が多く感じ、内心では冷や汗を感じていた。
後方に控えているエレノアへ目で合図を送る。
エレノアも同じことを感じていたのか、コクリと頷き風魔法で他の冒険者たちへ通達する。
「いよいよスタンピードの本陣が来ます!!ここからは皆さんにも仕事してもらいます!!気を引き締めてください!!!」
エレノアの言葉に、一気にウィニストリアの街全体に緊張が走る。
そして、ノートには恐怖も。
(多すぎる!?や、やばい……本当に逃げなきゃ…………だけど)
ノートは逃げられない。
仲間達を置いて……とかではない。
こんな状況で逃げたら、流石にみんなにバレて今後の冒険者活動がやりづらくなるからだ。
(や、やば……足が震えてきた…………チビりそう)
こうなった原因全てに呪いをかけたい衝動になるノート。
そういう適当なこと、何かの責任にすることを考えて恐怖を紛らわそうとする。
だが、それでもモンスターの姿が目に入ると恐怖で震える。
「ノート、貴方は自分の身を守ることだけ考えなさい」
「……へ?」
意外なエレノアからの言葉。
叱咤の声が送られると思ったが、まさかだった。
「貴方の真価はこの戦闘ではない。おそらく、この先になると思う。それまで必ず生き残りなさい。私もサポートするから」
「エ、エレノアの姉御……!」
「誰が姉御よ……」
初めて感じるエレノアの優しさに涙が出そうなノート。
「よし、行こうかぁ!!」
アーサーが気合を入れ直す大きな声をあげる。
本当のスタンピードが始まった。
*****
酒場『クラフトホーム』――――
ここも今は慌ただしかった。
前線で頑張ってくれている冒険者とは別に、機動力に自信のある冒険者や協会の人員を使ってスタンピードの原因となっているダンジョン付近の調査を行っていた。
モンスターの状況、ダンジョンに入ってしまっている冒険者の数など、状況を逐一把握し、各所への連絡を行っている。
クレアも、正規の冒険者協会の人間ではないが手伝いのために忙しなく動き回っている。
「クレアちゃん!こっちの書類を複製して!他の支部へ連絡したいから!」
「はい!!」
「クレア嬢ちゃん!傷薬が心許ない!ちょっと道具屋まで行って補充してくれるか!?」
「任せてください!」
酒場のマスターや協会の職員たちの指示のもと、テキパキ動くクレア。
『クラフトホーム』の看板娘だけでなく、しっかりと仕事もこなせる優秀なウェイトレス。
しかし、ひっきりなしに飛び交う指示に疲労は溜まっていく。
「ふぅ……」
「クレアちゃん、悪いね」
「いえ、これくらいは役に立ちたいので!」
「あぁ、本当にいい子…………娘に欲しい」
「その前に結婚しなきゃね、マスター?」
「辛辣!? くそ、この戦いが終わったら絶対にいい嫁さんをもらってやるぅ!!」
忙しない中でも軽口をたたくマスターとクレア。
少しでも気を紛らわせたいのだ。
そんな時、だった。
「ま、マスターはいるかぁ!?ダンジョンの偵察に行ってきた!!」
「おぉ、思ったより早かったなぁ!!」
偵察や情報収集を得意とする冒険者パーティが戻ってきた。
ダンジョン付近のモンスターたちの様子のチェックと、聞き込みでダンジョンに入った冒険者がいないかを調査したのだった。
「モンスターの様子はどうだ!?」
「と、とんでもねぇ数だ!数十体がひっきりなしに出てくるんだ!相変わらず異常だよ、スタンピードは!!」
「す、数十体…………!?」
冒険者たちの報告に、酒場内が静まり返る。
改めてスタンピードという天災の恐ろしさを感じさせられた。
「唯一の救いはアーサー様たちがいることだ!帰ってくる時に見たけど、あのパーティのおかげで相当数のモンスターが討伐されている!!」
「そうか!さすがSランクパーティだぜ!!」
(ノート、大丈夫かな?足引っ張ってなきゃいいけど…………)
クレアはあの場では場違いなノートのことを心配している。
なんだかんだ、付き合いも長いから気がかりになっているのだろう。
………あと、ツケもあるから。
「だ、だけど、やっぱり数が多すぎるよ。徐々にアーサー様たちだけでは対応できなくなってる!他の冒険者たちの防波堤にもモンスターが来るようになった!このままじゃ、街の近くにもやって来る!!」
「……流石に厳しいか…………」
第二陣まではアーサーたちで対処できていたが、徐々に数に押し負けていっている様子だった。
アーサーたちの防波堤を潜り抜けていくモンスターたちが次々と現れている。
モンスターたちの勢いは止まらない。
「やはりスタンピードの根本をなんとかしなければ…………と、そう言えばダンジョンの中は他に誰かいるのか?」
「ああ、何組かのパーティが潜っているそうだ!聞き込みで目撃者がいた!これがメモったリストだ!」
冒険者がリストをマスターに見せる。
他の協会職員やクレアも横から覗き込む。
人数からして三組くらいのパーティがダンジョンに潜っている様子だった。
ほとんどがこの街のパーティなので、見たことある名前が多い。
そんな中、クレアがある冒険者たちの名前を見つけて少し目を見開く。
「あれ?これって…………シエラちゃんの元パーティメンバー?」
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