小悪党ノートと裏切りの少女 9
「な、何でって言われても…………」
「あの状況で生きている訳ねぇ!!お前、本当にシエラなのか!?化けて出てきたのか!?」
「あるいは…………モンスターが化けた、とか?」
「へ、変な言いがかりです、ランさん!?」
酒場『クラフトホーム』に響く喧嘩の声。
ちらほらといる客もうるさい騒ぎ声に煩わしそうな視線を送る。
それはノートたちも同じだった。
「っるせえなぁ……何だぁ?」
「あれは、シエラだね?他にも何人かいるけど……」
アーサーのいう通り、喧嘩をしている相手の一人はシエラだった。
他に四人いる。
この四人がシエラ一人を囲んでいる。
――正確には、二人の男女がシエラに詰め寄り、二人はオロオロしながら見ているだけの様子だった。
「あれって…………」
「クレアさん、知っているのかしら?」
ダンジョンの情報売買やクエストの受付も行なっているため、冒険者たちが集まる場となっている酒場『クラフトホーム』。
クレアはそのウェイトレス兼ギルド職員でもある。
だからこそ、知っている冒険者なのかもしれない。
「確かCランクのパーティですね。剣士二人、魔法使い一人、神官職一人のバランスが取れたパーティで注目株でした」
「……
「そういう訳じゃないけど……少し前にパーティの一人が死亡したって報告を受けてね。そのメンバーの死亡補償の相談にきていました」
冒険者の死亡補償。
ダンジョンという危険な場所へ頻繁に行く冒険者は、当然死亡のリスクが非常に高い。
そんな冒険者にも、家族、友人、恋人……様々な大切な人たちがいる。
その人たちの生活、何よりも心のケアとして国が金銭の補償をしてくれる冒険者の街と言われるウィニストリア特有の保険制度のことだ。
「でも、そのパーティは補償を受け取る対象になっていなくて、ちょっとだけ揉めた記憶があったので覚えていたんです」
「そうなの……」
「あぁ〜なるほどな。そのパーティと揉めていて、聞こえた話の内容から察するに、あのパーティがシエラの元いたパーティってことか」
全て納得したノートは呆れたような視線を騒ぎの先に向ける。
無論、呆れの対象はパーティ側だ。
そんなパーティの騒ぎはまだまだ続いている。
むしろ、加熱しているようだった。
「あの状況でお前ごときが生きていられるはずがねぇんだ!シエラ本人であるはずがねぇだろう!?」
「みんな聞いて!?この女、すでに死んだはずの人間なの!!ここにいるはずがないの!!きっとモンスターよ!!早く倒しましょう!!」
「な、何を言って…………」
周りにも騒ぎを広げようとする男女――――剣士のアルクと神官のラン。
ただ、急に言われても周囲の冒険者たちは不審そうな視線を向けるだけ。
当然無視している。
だが、シエラは居心地が悪そうに萎縮してしまっている。
他の二人はシエラのフォローもしない。
(……あいつ、前のパーティじゃ本当に不遇な立場だったんだな)
「あいつら……シエラを助けに行こう」
「ええ、行きましょうアーサー様」
「待てよ」
アーサーとエレノアがシエラを助けに行こうとしたところをノートが止める。
二人とも不服そうにノートを睨む。
軽い睨みだろうが、いちいち圧力があって困る。
「なぜ止めるんだい?彼女は僕たちの弟子だ。助けに行かなきゃ」
「ここでも貴方は巻き込まれたくないとか、くだらぬことを吐くのかしら?」
「ちげぇよ。王族関係でSランクが出ていっても、シエラのためにならねぇよ」
「……ん?どういうことだい?」
「説明の時間はないな。とりあえずオレが行く。その後、合図出したらきてくれ」
ノートの言葉にアーサー、エレノア、そしてクレアまで目を見開く。
あのノートが、他人のために動く!?
そんな気持ちだったのだろう。
だが周りの様子を気にせず、ノートは立ち上がる。
そして、シエラに近づいて肩を叩く。
「あ、し、師匠……」
「何やってんだよ、先輩との飯に先輩を待たせるのは頂けねぇぞ?」
「す、すみません。でも…………」
「何だよあんた!邪魔すんな!」
ガタイのいい男、アルクの矛先がノートに向いてきた。
正直言って自分よりも強そうな男だ。ビビってしまうが、
「お前らこそ邪魔すんなよ。ここは酒場の入り口だぞ?入ってくる人たちの邪魔だ。特にお前みたいなデカいやつはな?」
「〜!!こ、このザコそうな野郎!!」
「ザコそうっていう必要なくない!?」
少しイラッとする。
だが、気にせずノートは続ける。
「さっきから大声で騒いでくれたおかげで話の大筋は聞いたけど、こいつは間違いなくお前らの知っているシエラだよ。見捨てて逃げたかつてのお仲間ぁー」
「な、何だと!?」
「み、見捨てたって……そんなこと私たち…………!!?」
ノートの言葉を聞いて、威勢の良かったアルクとランは少し削がれた。
周囲を見ると多くの冷たい視線が彼らを見ていた。
命懸けの冒険者稼業をやっている者たちにとって、仲間の死や犠牲は珍しいことではない。
だからこそ、裏切りは許すことができない。
信頼関係が築けず、大事な場面で自分の命の危機につながるからだ。
例え事実が違っても、裏切りや見捨てたという噂が広まると、今後の冒険者としての活動がやりづらくなる。
そうなると、当然噂を否定のために必死になるだろう。
アルクとランがたじろいでいると、二人の肩をぐいっと引いてリーダーのロメオが出てきた。
「仲間が失礼しました。僕はリーダーのロメオです。貴方は…………シエラとどういうご関係で?師匠と呼ばれていましたが…………」
「う〜ん……一応ダンジョン探索の指導をしているから…………師匠ってことかな?」
「……失礼ですが、お名前とランクは?」
「オレ?オレはノート。ランクはE」
「はっ!Eランクなんかに今更教わっているのかよ、シエラ!」
「笑えるー!!情けない女ね!元は私たちCランクパーティに所属していたくせに!!」
「はは、しょうがねぇよラン!あいつ単体はEランクなんだからよ!!」
「あ、そっかー!ならお揃いかもねー、ぷぷぷ!!」
攻撃できるポイントを見つけると、徹底的に攻め始めるランとアルク。
自分だけでなく、尊敬するノートまでバカにされてシエラはカッなり動こうとする。
しかし、ノートに肩を抑えられてしまう。
「お前らも似たようなもんだろう?単体じゃあDかEなんだろ?」
「あんたと違って、俺らはまだ先があんだよ!」
「そうよ!あんた二十代でしょ?その年でEランクなんて、うだつが上がらなさすぎでしょ?」
「この……!!」
「落ち着けよシエラ。この程度の挑発に乗るなって」
「でも、師匠!」
徐々に怒りが燃え上がっているシエラとは反対に、ノートはいたって冷静だった。
もう何度も言われ慣れている。
昔はもっと酷いことも言われたが、もう簡単に受け流せる。
こんなイキるだけの連中の言葉は、ノートにはどうでも良かった。
「ちなみに、あんたらが見捨てたシエラを助けたのはオレだからな?だから、コイツは正真正銘の本物のシエラだ」
「あのダンジョンにいたのですか?我々が逃げた時には会わなかった…………」
「多分、お前らが来る前からいたと思うぜ?黒いミノタウルスっぽいモンスターと戦っているシエラを助けたんだよ。お前らも会っただろう?」
「あ、あいつを倒したのですか?貴方が?」
Eランク程度で倒せないだろう?
言外にロメオはそう言いたげだ。
「参考までにどう倒したか伺っても?」
「残念だが秘密。そう簡単に自分の手札を晒したくないが、あえて言うならお前らじゃ真似できない方法とだけ言っておこう」
「ふかし言うな!あの化け物たちをアンタ一人で!?」
「信じられないわね……全部嘘でしょ?」
「そう思いたきゃ思えば?しょうがねぇよ。格下と思ったやつが、自分たちじゃ歯が立たない……仲間を見捨てて無様に逃げるしかできなかった敵を倒したなんて、思いたくねーもんなー?」
嫌味らしくノートに言われ、アルクとランは歯の軋む音が聞こえそうなくらい悔しがっている。
ロメオも悔しいのか、少し震えている。
もう一人の魔法使い――ヴァレイだけはオロオロとしている。
呪いの龍であるブレアの攻撃で倒したなんて言えないが、少しでもやり返したかったので、攻撃方法はボカシながらも嫌味を返した。
ちなみに、ブレアはまだ眠っているのでまだ使えない。
「第一、あの場にアンタがいたら私たちが気づいたはずよ!?」
「隠し部屋だよ。そこにいたんだ」
「はい嘘決定だな!俺たちはその隠し部屋を開けて、そのモンスターを見つけたんだ!お前がいるはずがないね!!」
「他の隠し部屋だよ……………………あの大空間の天井にも隠し部屋の入り口があるんだよ」
「え……」「何だと!?」
まさか自分たちが見つけた以外にも隠し部屋があったことに驚く。
その様子にノートは鼻で笑う。
「お前ら探索が甘いよ。あの場所は何ヶ所か隠し部屋や隠し通路への入り口が隠されていたぞ?ちょっと調べりゃわかるはずだぜ?」
「そ、そう、なのかい?」
「Eランクのオレにそんなことを教わるなんて……確かに経験不足の若者だな。これからの将来に期待しとけや、はは」
「このやろう!」
「よせアルク!!」
ロメオに止められたアルク。
興奮気味だったが、周囲の視線がどんどん冷めた様子なことに気がつきバツが悪そうだった。
ノートは十分に言い返せたことに満足した。
もうロメオたちパーティに興味はない。
「まあそう言うことで。もう邪魔だからどけよ。シエラ、行くぞ」
「あ、は、はい……」
「ま、待ってください!だったら尚更シエラに話が……」
そう言ってロメオがシエラの肩に手を置いて強引に手を引く。
シエラはビクッとして固まってしまう。
その様子に、ノートはため息をつく。
「おいおい色男くん?か弱い女性相手にそんな力一杯肩を掴むのはモテないぜ〜?」
「黙ってください!シエラ、僕たちのしたことは謝るよ。でも、生きているならもう一度一緒に冒険にでよう!」
「………………」
はっきり言って、ロメオの提案に乗りたくない。
乗るわけがない。嫌悪感しかない。
だが、今までの弱かった自分が顔を出す。
このパーティにいた時、強気な姿勢で強引に、いいように使われてきた記憶が思い出される。
「シエラ」
名前が聞こえビクッとしてしまうシエラ。
だが、声の主――ノートの顔を見ると弱い自分が奥に引っ込む。
「もうお前は強い冒険者だ。冒険者なら、自分の好きなように意見をいいな」
そして、ノートの言葉は強気な自分を引き出してくれる。
シエラは静かにロメオの腕を掴み、徐々に力をこめる。
「う、ぐ…………!?」
「ロメオ」
苦悶の表情を浮かべるロメオの顔を静かに見据えるシエラ。
その瞳には怒りも、憎しみも、悲しみもない。
ただの無――路傍の石を見るかのようだった。
「私、もう別の人とパーティを組んでいるの」
「な……ぐ!?」
さらに力が強くなってロメオはシエラの肩から手を離す。
……つもりだったが、シエラの力が強く動かせない。
思わぬシエラの力に動揺を隠せないロメオ。
その様子を見てアルク、ラン、それにヴァレイも訝しげだった。
「そもそも、貴方たちのパーティにいても私は成長しない。ただ好きなようにこき使われるなんて、もう真っ平ごめんなの」
「し、シエラ…………!?」
「テメェ、シエラァ!雑魚のくせに生意気だぞぉ!!」
もう我慢できなくなったのか、アルクが剣を抜こうとする。
しかし、すぐにシエラが動き、そのアルクの剣の柄を手で抑える。
その無駄のない素早い動きに誰も反応できない。
「な……い、い、いつの間に!?」
「こ、この……!?」
ランが持っているステッキを振り上げてシエラを殴ろうとする。
しかし、これもシエラにとっては取るに足らない攻撃だった。
すぐにステッキ目掛けて蹴上げをし、ステッキを砕き飛ばす。
「う、嘘!?」
「アルクさん、相変わらず力任せの攻撃ですね。単調で力みすぎて遅すぎ…………だからこうやって簡単に封殺できます」
「く、くそ!なんで……剣が抜けねぇ、俺がシエラよりも力が弱いだと!!?」
「ランさん、貴方は判断力に欠けていますね。多少の回復と防御魔法しかできないのに、物理攻撃なんて最低の選択ですよ?」
「わ、私のステッキが……!?」
シエラはアルクの剣の柄を離す。
しかし、すぐに顔面に思い切り後ろ回し蹴りを与える。
「ブッホォ!?」という間抜けな悲鳴をあげてアルクは静かに倒れて気を失った。
見事なシエラの動きに、周りの冒険者たちは歓声を上げる。
「し、シエラ!?なんてことを!?」
「襲いかかってきたから倒しただけよ?落ち度はそちらにあるけど?」
「だ、だからって仲間に……」
「もう仲間じゃない。それに、そもそもこの人たちは私をただの小間使いとか、いざという時の盾としか考えていないでしょう?」
「そ、そんなことな考えてないさ!二人ともキミを――――」
「貴方も同じでしょ、ロメオ?」
シエラはずっと言いたかったことをロメオにぶつける。
パーティから積み重なった、鬱憤。
「貴方は私のことを気にかけるようなことを言ったり、この二人の愚行に謝る
「な……!?」
「『な……!?』じゃないよ。結局貴方も自分がいい思いができればそれでいい、自分が周囲に悪いと思われなければいいとしか考えていない。だから二人を注意もしないし、私を積極的に助ける行動もしない。でしょ?」
「ち、違う!僕はキミを思って――――」
「違わない。私を思っていたら、パーティに誘わないわ。見捨てた癖にまた誘うなんて面の皮が厚すぎない?私の感情を考えたら、『誘う』なんて選択は絶対にないわ」
「う……」
「周囲の目もあるから、私との仲は悪くないアピールをしたくて誘った。そして今までみたいに都合よく使おうと考えていたのよ」
「そ、そんなこと考えていない!信じてくれ!」
「…………そうね、そんなこと、貴方は考えないかもね。貴方は
「……!?」
もはや言葉も出ないロメオ。
そして、それでもシエラの言葉は止まらない。
静かに、そしてじわじわと今までの鬱憤をロメオに叩き込んでいる。
シエラにとって、アルクとラン以上にロメオが許せなかったのだ。
リーダーの癖に、全く自分を助けたり、パーティの関係を改善しようとしない、無責任なこの男が。
ノートはその様子を面白そうに見ていた。
礼儀正しく、自分に自信のない少女が、ここまで強く重い口撃ができることが面白かった。
「…………以上、これが貴方のパーティに入らない理由です。それじゃさようなら」
「ま、待ってくれシエラ!」
ここまで言われてまだシエラを引き止めようとしていることに、ノートは驚愕とある種の感心を覚えてしまった。
だが、これ以上は時間の無駄だとノートは思い、アーサーたちに目配せする。
「キミが言ったこと、直すから!だから、ぜひパーティに来てくれ!キミの力が必要なんだ!!」
(ああ、なるほど。シエラの急成長した力を欲しているのか。呆れたやつ…………シエラの言葉を聞いて、すぐにまたそんな誘い方したら絶対に断られるだろうに)
ロメオという男の底の浅さが見えてしまったノートは、今度は憐れみすら覚えた。
そして、やはりシエラは呆れたようにため息を吐く。
もうそこに弱気なシエラはいなかった。
「今度は私の『力』を利用する気ですか?格好悪い男…………貴方なんかに師匠たちから授かった力を利用させたくない」
「い、今キミがパーティを組んでいる男はこいつだろ!?」
ロメオはノートを指差していう。
「こ、こいつだってキミの力を利用しているんじゃないか!?きっとキミはこいつに搾取される!だったら僕のパーティと組んだ方が――――」
「ノート師匠の悪口を言うな!師匠にはダンジョンのイロハを教えてもらっている!学ぶことがたくさんあるんだ!貴方たちと違って!!」
(……実際は少しトラップ部屋のお宝回収に雑用として利用しているから、ちょっと居心地悪いな)
ノートが心の中で少しバツが悪そうにするが、シエラの言葉は単純に嬉しかった。
そう思ってくれていたことが、嬉しかったのだ。
「だ、だがキミの強さはコイツの所では輝けない!こんな底辺で細々とやっているパーティと組むくらいなら、僕と組んだ方が――――」
「誰のパーティが底辺なのかな?」
静かな声が響く。
その声を聞いて、ロメオは思わず言葉を止めて声の方を見る。
ただならぬ圧を感じたからだ。
そして、その認識が間違っていなかったことに気がつく。
ただし、最悪な事態であることにも気がついてしまった。
「あ、あ、あ、貴方……は…………!?」
「あれ、流石に僕のことは知っていたのかい?物知らずそうだったから、意外だよ」
ロメオは嫌味を言われても何も言い返せない。
なぜなら、相手が大物すぎたから。
「Sランク冒険者……アーサー王子!?」
「え、どういうこと!?」
ランも動揺する。
ヴァレイはもう訳がわからずに固まるだけだった。
「僕たちはノートとパーティを組んでいてね。そのノートが助けたシエラともパーティを組むことにしたんだ」
「は、はん!シエラ、あんたSランクのアーサー様のおこぼれをもらおうって魂胆ね!情けないやつ!!」
「……ハァ、自分たちの物差しでしか測れないのね、ランさん。私はアーサー様とエレノア様から戦い方を、ノート師匠からはダンジョン探索を学んでいるの。自分を強くしたいから……報酬は自分が稼いだ分しかもらっていないわ。なんなら確かめますか?私がどれだけ強くなったか?」
「うっ……!?」
壊された自分のステッキを見て、ランは顔を青ざめる。
ロメオも、掴まれた腕にできたアザを見て情けない顔になる。
「そういう訳で、ノートとシエラへの侮辱は我々への侮辱と見做すけど…………どうする?」
そこまで言ってアーサーは剣に手をやる。
後ろからエレノアも来て、魔力を全身にたぎらせる。
最高ランクの圧に、ロメオは後退りしながら倒れ込む。
ランも目からは涙が溢れている。
戦うまでもない。勝敗はとっくに決している。
「もう二人に関わらず、ここを去るなら見逃すけど…………どうする?」
「ひっ……」
アーサーのトドメの圧のある言葉にロメオは情けない悲鳴を上げる。
そして、気絶したアルクを背負い、慌てて出て行った。
ランもそのあとを追って泣きながら出ていく。
「シエラ……」
「ヴァレイ……」
唯一残ったヴァレイはシエラに近づき手を握る。
その手は震えていた。
「ごめんね?今までありがとう……」
「!?…………う、うん」
それだけ言ってヴァレイも静かに去っていった。
その瞬間、拍手が巻き起こった。
シエラの勇気と強さへの賞賛、アーサーとエレノアへの賞賛、ノートへのからかい混じりの賞賛で溢れていた。
「ハァ、疲れた……さっさと飯を食おうぜ?」
「ふふ、なるほどね。シエラ自身が奮い立たなきゃ今後も心が弱いままだと思ったんだね?」
「あん?」
「最初僕たちを止めた理由だよ。ノートはあの騒ぎもシエラの成長に繋げたんだね?」
アーサーの言葉を聞いてノートは照れくさそうに視線を逸らした。
図星だったようだ。
「……あいつが強いことはオレたちは知っている。なのに格下にビビっているのが腹たっただけだよ」
「はは、素直じゃないね」
「でも、まぁ褒めてあげましょう」
「うるせーよ」
珍しくエレノアも褒めてきて本格的にノートは恥ずかしくなった。
その元凶である少女に声をかけ、早く飲み直したい。
「おいシエラ!遅くなった分、ちゃんと飲むぞ!!」
「あ、はい!」
シエラはボーッと手を見て、ヴァレイが去った方角を見ていた。
握られた手に少し痛みを感じていた。
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