小悪党ノートと龍の秘宝 8
呪いの黒龍、ブレアは話を続ける。
“そもそもワシはただここで静かに過ごしていただけなのに、ある時から急に人間があの『ゴミ箱』を設置し、石や死体、
「…………あんたの方が先にここに住んでいたのか。ってことは、ブレア村の呪いの伝説は、嘘っぱちじゃん」
“ぶれあむら? 何じゃそれ? ワシの名前が入っておるが?”
ブレア村の全てが嘘だった。
龍の呪いによる流行病、その抑制としての生贄、引き換えに手に入れられる龍水。
その全てが。
ノートはその事実に驚く。
続いて他の逸話も確認することにした。
「……なぁ、昔あんたに水を求めた人間とかはいたか?」
“水? 何でじゃ? ワシ、水魔法は使わんぞ?”
(……これも嘘かよ…………)
「あんたがこの樹林に来た時、人間の集落とかなかったか?」
“それはないな。ワシは気遣いのできる龍。ワシが無意識に放出している呪いや闇のエネルギーの影響は、ほとんど生命体に悪影響を及ぼす。故に、ワシの住処は何もない場所を選んだのだからな”
「…………実は隠れて住んでいたかもという可能性は?」
“ありえん、と断言しよう。来た時に樹林全体を巡回し、万が一を想定してこの樹林全体を闇魔法や呪いで覆った。さらにその後、もう一度巡回して何もいないことを確認したからな”
再びサラリと凶悪な所業の告白があったが、気にしないことにするノート。
(というか、そんなことをしたからダンジョン『龍眠る呪樹林』ができたんじゃないか?)
一旦頭を切り替えよう。
ブレアの話を聞き、ノートはこう結論を導いた。
ブレア村の伝説は、全てが捏造――――嘘だった。
だが、村には今も流行病が残っているらしいし、何より生贄の風習が残っている理由は何だ?
そう考えていると、先ほどのブレアの発言でフッと気になったことが出てきた。
「…………なあ、あんたさっき
“うむん? おおそうだ! 老若男女……というんだったかの? 気絶したいろんな人間がここに置き去りにされて、翌日には黒服の集団が持ち帰っていく。そのあとにこのゴミ箱もまた別の人間が漁っていたなぁ”
「置き去り……ゴミ箱を漁る…………」
誰かが何らかの理由で気絶、または死亡した人間を置いていく。
その翌日には、その人間は黒服集団が回収する。
ゴミ箱――――いや、宝箱の中身を漁る別の人間。
そこまで知って、ノートはある結論に至った。
「……ヤッバ…………あの村、闇深すぎるだろう」
そして、ブレア村の真実に戦慄したのだった――
*****
時は遡り、ノートがマイの生贄の身代わりとして別行動を開始した後――
アーサーたちは、村の中を移動しながら聞き込みをしていた。
「ダメだったね〜。全く話が聞けなかった!」
流行り病にかかった家族、生贄に指名されたことがある家族…………呪いの被害にあった人たちに話を聞こうとしたが、誰も話をしてくれなかった。
「アーサー様、妙ですね。辛いことを思い出したくない、ということなら分かるのですが………」
「うん、僕もエレノアさんと同じこと感じたよ。みんなそんな感じではなかったね。どっちかっていうと、口止めされてるようだよね〜」
アーサーたちが呪いや流行病の話題を出すと、「何も話すことはない!」「話せることはありません」っと言ってすぐにアーサーたちを追い出した。
「これじゃ何も聞けないね〜」
「いえ、何も話さないということも既にヒントですよ」
「? どういうこと、エレノアさん?」
「さっきも言いましたが、やはり皆口止めされているんんだと思います。そして、それができるのはこの村の有力者です」
「…………まぁ、そうなるよね。どっちにしろ、村長に話を聞かなきゃいけないってことか」
村長の元へは、村長補佐でもあるマルコが案内してくれる。
しかし、そのマルコは今マイの代わりに生贄となっているノートを送り届けている。
それまでは、村長の元へはいけない。
「ねぇセリオくん。この村の有力者って他に誰がいるの?」
アーサーの問いかけに、セリオが「う〜ん」と悩みながら答える。
「おそらくですけど、村長を除いたら三人ですかね?」
「ありゃ、三人しかいないんだ」
「マイの父で村長補佐のマルコさん、町医者でこの村の医療を一手に担うロビンさん、昔キルリア王国にも勤めていた学者のジェラさん。この三人ですかね」
セリオ曰く、この三人と村長でブレア村の運営や方針を決めているとのことだった。
よく四人で協議をして、そこで決定したことを村民全体に伝えているそうだ。
「なるほど、まさしくこの村の四大有力者ってところだね」
「そうですね、有力者っというか次期村長選の有力候補ですね」
「次期村長?」
「はい、このブレア村はもうすぐ次の村長を決める選挙があって、四人から選ばれるって噂ですよ」
「ふ〜ん、ちなみに誰が最有力なの? やっぱり現役の村長さん?」
「いえ、現役の村長――ギークさんは、最近権力の独占や村の資金の着服の噂が流れていて不人気らしいですよ」
「あら、そうなの?」
「本人は否定しているそうですがね」
さらにセリオ曰く、
町医者のロビンは流行病がいまだに治らない点、学者のギークもブレア村の呪いに対する対策を期待されなが、何年も成果を上げていない点で、よく思っていない人物もいる。
「それに比べて、マルコさんは村人からの声を聞いて村の運営に反映させたり、積極的に他の村と交流して村への誘致もしているから信頼感があります」
「なら、マルコさんが次期村長に一番近いのかしら?」
「そうだと思います」
「ふ〜ん……村長の噂はアレだけど、他二人に関しては彼らが悪いわけではなく、呪いのせいだよね」
「ええ、そうですね。ただお二人とも、この村に来た当初に『自分ならこの村にずっと続く病を治せる!』『民俗学に詳しいから呪いを消す方法を見つけ出す!』って宣言してしまって…………期待が高かった分、何の成果もあげられない現在に納得していない人も多いんですよ」
「ビッグマウスも、大概にしなきゃいけないわね。この村にとって、それほど呪いはデリケートな問題なんだから」
そんな会話をしていると、ふとアーサーが気になったことを話す。
「そういえば、さっきまでの聞き込みで思ったことがあるんだけど…………」
「何ですか、アーサー様?」
「流行病と生贄の家族って、それぞれちょっと似てない?」
「「………………似ている?」」
アーサーの言う『似てる』の意味がわからずに言葉に詰まるエレノアとセリオ。
その様子を察して、アーサーがもう少し詳しく話す。
「流行病にかかった人たちは、みんな貧乏……というかお金に困っていたようで、生贄の家族はなかなか裕福な感じじゃなかった?」
アーサーに言われて思い出す二人。
そして、言われてみれば……と納得した。
「病にかかっている人の家、確かにボロボロでしたね。服装も他の村人と比べてボロボロで汚れも目立っていたような……」
「生贄になったご家族も確か…………あった! 徴税の金額を見てもこの村では比較的高額な納税…………つまり裕福なご家庭ですね!」
「でしょ? それぞれに共通点があった。ただの偶然なのかもしれないけど…………偏りすぎって思わない?」
確かに、今までで十件以上の家を訪問して、聞き込みをしていた。
話を聞こうと必死だったためにあまり考えていなかったが、アーサーの言うことに納得ができる。
「……ですが、治療のための支出が増えて貧乏になった、となれば辻褄が合いますし、自然ですよね? 不自然ではないようですが…………」
「そうですね。現に流行病にかかっているご家庭は昨年前までは、割と裕福…………と言うよりも、かつて村長を務めた一族でもあるのでかつての有力者と言っていいですね」
「え…………全部の家庭が?」
「そうですね…………ん? それって…………偶然、なのか?」
自分で話していたセリオも疑問に思った。
流行病にかかった家庭は、かつては裕福だった。
しかも、村長経験者がいる家庭ばかり――――
流石に、ここまで一致すると偶然で済ませるには、奇跡に近い。
「何か…………村長と呪いによる流行病が、妙な繋がり方しちゃったね〜」
「そ、それって…………龍の呪いに村長になった者が関わっていると言うことですか!?」
「可能性の話だよ。もしかしたら、そこから龍の呪いを解く突破口が開かれるかもね!」
Sランクでも勝てるかわからない強敵である龍。
この龍に勝たなければ、呪いは解けないと思っていた。
しかし、ここにきて呪いと村長になる者たちに繋がりが見えてきた。
龍を倒す、という難しいことをしなくても、解く方法があるかもしれない。
「ならば…………生贄になった家族が裕福な家庭ばかりなのも、何かそこに絡んでくるのでしょうか?」
「う〜ん…………これ以上はわからないね! こっからは現村長のギークさん…………だっけ? に話を聞いた方がいいね!」
「す、素晴らしいですアーサー様! 呪いの真実に近づいたみたいですよ!…………あぁ、マルコさん、早く来ないかな!?」
セリオの気持ちは逸る。
呪いを解く方法がわかるかもしれない。
そしたら、最愛のマイと何の心配もなく生きていける。
マルコとの合流が待ち遠しかった。
この後、無事にノートを送り届けたマルコが合流し、アーサー一行は村長の家へ向かうのだった。
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