小悪党ノートと龍の秘宝 5



 キルリア王国 ブレア村――



 ノートたちが村に着いて一日が経過した。


 昨日はアーサーが考案した作戦をスムーズに進められるように打ち合わせをして一日潰れた。

 その日は、そのままマルコとマイ親子の家に泊めてもらった。



 

 そして、翌日。

 龍水祭の最終日。


 この日、ついに生贄の儀式が執り行われる。

 儀式は一番初めに行われることとなっている。


 そのため、生贄になるマイは儀式のために準備を行う。

 しかし、昨日決まった作戦の通り、ノートがマイの代わりに生贄になる。



 今、マルコとマイの家でノートは生贄の装束を身につけた。


 

「おお〜似合ってるね、ノート!」

「ほ、ホントですな……男性が着ているとは思えません」

「そ、そうね……ププッ…………存外、あなたは女性ものの衣装が似合うのね……ブフゥ!!」

「うるせぇ!!笑うなエレノア!」



 冒険者の割に体の線がスリムなノートは、女性向けの生贄衣装が予想以上に違和感がなかった。

 ……と言うより似合っていた。


 セリオはあまりのフィット感に驚き、マルコとマイは苦笑していた。

 …………いや、マイは比較的普通に笑いを堪えていた。


 それが一番ノートにとっては不愉快だった。 



 (くそ! お前は笑うな!誰のために身代わりになっていると思ってんだ!)



 この場にいるのは、ノート、アーサー、エレノア、セリオ、マイ、マルコ。

 アーサーが今日の動きを確認するために、全員に話しかける。



「それじゃあ、今日の皆の動きを確認しま〜す」

「「「「はい」」」」「言い方軽っ……」


 

「まずノート! マイさんの代わりに生贄として『龍眠る呪樹林』へ移送される! 大人しく、バレないようにしていてね!」

「……はいはい」

「そんで、樹林を調べて龍を倒す方法や呪いを解くヒントを探索してくれ!」

「…………明らかにEランク冒険者に任せることじゃないよなぁ」


 

「次に僕とエレノアさんは、生贄の儀式が行われている間に色々と村で情報収集! 村長が暴走した理由とか調べよう! それである程度時間が経ったら、呪樹林へ向かってノートと合流!」

「畏まりました」

「は、早く来いよ! 本当に!」


 

「セリオくんとマルコさんは村長に接触して色々と探りを入れて欲しい! できたら後で僕たちも一緒に挨拶って名目で村長に会いたいな!」

「ええ、すでに今朝村長に話して面会の段取りをしておきました」

「さすが村長補佐! 優秀だね! でも、マルコさんは、生贄の父としてノートを生贄の控え場所まで案内するんだったよね?」

「はい、送り届けた後、すぐアーサー様たちに合流いたします」



「マイさんは………………どうしよう?隠れてもらう?」

「そこは考えてなかったのかよ…………」

「あははは! ミスは誰にでもあるさ!」

「あの…………昨日の夜、父とセリオには提案したのですが…………」

「マイには一旦私の実家に行ってもらおうと。この村で隠れても見つかりかねませんので」

「セリオくんの実家?………………いいかもね!手配はセリオくんがやってくれるの?」

「はい! マルコさんの友人である宿の店主に、ウィニストリアの定期便に乗せてもらうように手配して頂きました。そのまま私の実家へ行ってもらいます」

「迷惑をかけてごめんなさい、セリオ…………」

「キミのためならこのくらい!」

「………………」

「どうしたんだい、ノート?」

「……………………いや、別に」



 全員の動きを確認し、アーサーが頷く。



「よし! それじゃ、マイさんを救うクエスト、開始だ、頑張るぞ〜!」



 アーサーの言葉を合図に、全員が動き始めた。




 *****




 

 ブレア村 生贄の社——————



 マルコの先導でマイのフリをしたノートは、生贄となる者が儀式開始まで控えるこの場所へマルコに案内されながら歩いて向かっていた。



「随分と寂れた場所だなぁ」

「…………もうすぐ死にに行く者のための場所なので、そこまでお金をかける必要がない、という村の方針でして……」

「祭りであれだけ賑わせれば満足だろってか? 随分と気の利く気遣いだこと」

「ははは…………返す言葉もありません」



 そんな会話をしながら向かっていると、何かが見えた。


 見た感じ、お神輿のようだ。

 

 そして、その周りには二人の男。

 腰には剣を携えており、格好はしっかりと整えられた衣装を着ている。


 マルコがコソッと教えてくれる。



「あの二人が今回の見送り人です。村でも指折りの戦士です」

「だろうな。腰の剣、飾りじゃなさそうだもん。あんたが見送り人やったことあるって聞いていたから、村人の持ち回りと思ったけど……」

「普段はそうです。でも今回は村長の指名であの二人が選ばれました。生贄…………マイが絶対に逃げないようにしたのかもしれません」

「…………オタクの娘、何か恨みでも買ってたの?」

「そ、そんなことは——————」

「声でかいよ。冗談だって」



 (半分だけはな)


 そんな言葉を心の中でだけ呟いた。


 社にどんどんと近づき、やがて見送り人二人がノートたちに気がついたのか近づいてくる。



「マルコさん、お疲れ様です」

「その、なんと言っていいか…………」

「…………キミたちが気にすることじゃないさ」



 見送り人の二人は、屈強な肉体と強面だが、マルコを見ると暗い表情で言葉を選びながら話しかける。根はいい人そうだ。


 マルコに声をかけた後、生贄のマイ——————に扮しているノートにも声をかける。



「…………マイさん、その…………ごめんな」

「………………」

「俺たちも役目だから、恨まないでくれよ。あんたのこと、忘れないからさ」

「……………………」

「……マイさん?」

「む、娘もさすがに心の整理がうまくいっていないんだ。そっとしておいてくれないかな?」

「そ、そうだよな……気が回らなくてすまねぇ……」



 話すとバレる為に無言だったノートのフォローをマルコがしてくれた。

 心中を察した見送り人たちは、そのまま神輿にノートを案内した。



「マイさん、わかっていると思うが、これからこの神輿に乗ってもらって村を一周する」

「最後の姿を村のみんなに見てもらうんだ。その後、樹林へ行き、入り口に設置している祭壇まで行く」

「そのあと、マイさんが自ら樹林の奥へ進んでもらう。唯一整備された道を進んでもらえれば、龍のいる場所まで迷わず行ける」

「その道は、龍との契約でモンスターに襲われない道だ。だから、絶対に離れないでくれ」

「……わかったか?」



 ノートは頷くと、そのままさっさと神輿の中へ入る。



「…………それじゃあ、もう神輿を運ぶ。マルコさん、いいかい?」

「………………………………頼む」



 マルコの返事を聞いて、見送り人はノートの乗っている神輿を担ぎ、村の中心へ向かっていった。

 マルコは、見えなくなるまで見送る。



「…………頼んだぞ、冒険者くん」




 *****




 神輿で運ばれて数十分が経過した。

 現在、ノートは生贄の儀式として村の一周している最中だ。


 ノートは、退屈していた。



 (……ずっと座りっぱなしで疲れる! 寝っ転がりたいけど、そんなことするとバレるし…………ああ、足が痺れてきた! くそ、めんどくせぇ!!)



 心の中でたくさんの文句を言うが、表向きは生贄に向かう悲壮の覚悟を背負ったマイを演じている。

 そんなマイに扮するノートの姿に村人は泣いている。



「まだ若いのに………」「何であんな美人がこんな目に」「マルコさんも辛いだろう、奥さんに先立たれた上に自慢の娘まで……」


 多くの嘆きの言葉が、ノート耳に入ってくる。



 (結構人気なんだな、マイって人は。まぁ興味ないけど………………ヤバい、めちゃくちゃねむい…………)



 あくびは何とか堪えるが、首はこくん、こくんと動いてしまう。

 その度、村人に怪しまないようにすぐに起きる。


 眠りたくても眠れない……地獄の時間を過ごしたが、遂に村の巡回は終わったようだ。


 神輿は村を離れ、どんどん周りに木々が多くなってきた。




 *****




 ブレア村の外れ――



「着いたよマイさん。ここが生贄の祭壇だ」



 見送り人の声を聞き、ノートは神輿を降りる。


 そこは薄暗い樹林が広がっていた。

 背の高い木が多いこともあるが、なぜかこの場所だけ空が雲に覆われている。


 呪いの龍の影響か、ダンジョン化している影響なのか。


 ただ言えることは『不気味』で無意識で『恐怖』を感じる空間だった――



「それじゃ、我々はここで………………さよなら、マイさん…………」

「せめて、楽に…………くぅう!」



 見送り人は泣きながら神輿を担いで去っていった。


 その後ろ姿を見送り、ノートは伸びをする。



「う〜ん!…………ようやく動けるぜ……!? い、いてて、まだ足が痺れてる…………」



 そう言いながら生贄の装束を脱ごうとするノートだったが、ある事を思い出して一旦止める。



「そういえば、見送り人は生贄が逃げないようにしばらくは遠くで見張っているんだよな? だったら今脱ぐのはダメか」



 動きにくいのに、と文句を言いながらノートはキョロキョロと周りを見る。



「さぁて…………早速お宝探し――をするとマイじゃないってバレるか。しょうがねぇな、しばらくは龍の元へ行くか」



 そう自分で言って、ノートは改めて龍の近くにきたことを思い出す。

 言葉にして改めて実感したためか、ノートは身震いした。


 意識してしまうと、自然と感じる巨大で不気味な力の波動――。


 間違いなく、『呪いの龍』がいる。



「…………や、やべぇ……震えが止まらねぇよ…………でも、行くっきゃねぇよな」



 さっさと来いよ、アーサー。


 非常に……本当に非常に不本意ではあるが、アーサーたちとの合流を心待ちにしつつ、ノートは遂にAランクダンジョン『龍眠る呪樹林』を入っていくのだった。

 

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