約束という名の呪縛

黒鉦サクヤ

約束という名の呪縛

 僕はあの子に追いつかれないように、必死で走った。僕はいいわけを考えなければならなかった。あの子にするいいわけを。


 久々に、僕は母方の祖母がいるこの町を訪れた。幼い頃によく来ていたが、中学にあがってからは忙しく足が遠のいていた。一年に一度は必ず来なさい、と言われてたけど、忙しいことを理由に来なかったのだ。切羽詰まったように催促をされても無視をした。でも、高校二年に上がり余裕ができたので、両親と共に祖母の家にやってきた。歓迎されると思ったのに、祖母は僕を見て悲しそうに呟く。

「約束は破っちゃいけないとあれほど言ったのに」

「忙しかったんだ」

「そのいいわけが通用する相手なら良かったけれどねぇ」

 その言葉を聞いて、母の顔が青くなる。まさか、と叫んで僕の両肩をすごい力で掴んできた。

「あんた、と約束したの?」

 祖母と約束をしたと思っていたのは勘違いで、友達ができたという報告をしたのだ。

 その友達は祠にいた。同い年くらいの子と出会い、浮かれた僕は友達になったのだ。帰る日に、毎年会えるよね、と聞かれ僕は頷いた。

『絶対だよ、約束だよ』

 その時、あの子の声が脳内に響いた。静かに僕の中に浸透した、約束という名の呪縛が息を吹き返す。何故か忘れていたあの子の存在。

「忘れてたんだよ」

「あの子には人間の都合なんて通用しない。イチかゼロか。お前はとんでもないものと約束してしまったんだよ」

 ようやく事の重大さに気がつき、身を震わせて縋るように母を見つめるが、母は静かに首を振る。

「一晩、逃げ切って相手に負けない、いいわけをするの」

 無理だよ、と叫んだ直後、恐ろしい形相で昔と変わらぬ姿のあの子が僕をめがけてやってくる。

 僕は慌てて駆け出した。

 息が切れ全身が痛くても、走ることをやめたら異形の者に捕まってしまう。

 僕はまとまらない思考に頭を抱えながら、ひたすらいいわけを考えるのだった。

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約束という名の呪縛 黒鉦サクヤ @neko39

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