静寂に捧げた音の転回(詩集)

小高区雑記

太陽を盗んだ男

 なぜ飛び降りてあなたは死んだのだ

 重なる影が美しかったと気づかないで

 生きたくも死にたくもないと願うはずのあなたは

 岩窟で言葉ほど枯れて変わってしまった

 どうしよう、空の明るさはもう戻らないから気にしてしまう

 俺は思い出へ逃げようと翠色の海へ駆け出した


 俺がいた。あなたがいた。もっと言えば七日で創られた世界があった。

 うたうあなたを殺したくて、うたわなくてもいいのにと思ったから

 本を壁にしてあなたのよびかけに枯れろと願った

 生きるも死ぬも何もなく、おれには美しい空があったのに

 あなたに死にたかったのでしょと言われて

 どうしよう、その空が美しくないことに気づいてしまった


 死ねただろうに

 あなたは太陽にあいたくて生きていた

 その日を超えても生きようと声をしのんで

 覗かされる連続する赤い月夜には見上げて海を忘れていた

 岩窟から出ることをぼくらはいつか太陽の光を手の甲に当てることで望んだのだろう

 俺は太陽を盗むことにしたのは翠色の海にあなたのこえが響いてほしかったから


 盗んだ太陽があなたがいないのに輝いてる

 どうしよう、ひとごろしの手に握りしめられたナイフの行き先はどこなんだ

 俺はナイフを捨てられずあなたの思い出がいいから血にふれて

 言葉を思い出す、繰り返せ、死にたかったのでしょ、でも

 思い出しても思い出しても重なるあなたのにおいが

 俺にどうしろというのだろう


 岩窟から出て俺の声だけが反響せず不連続にある

 翠色の海は暗いままなのに見るのを止められなかった

 太陽がない、どうしよう、空と海だけがある。

 美しくない空が、貴方の映らない海がどうしてあるのだろう

 でも、あなたのにおいが思い出から離れないから

 どうするべきかなんて暗やみでは分からない俺は生きることにした

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る