令和の実話系怪談(短編集)
今迫直弥
カフェ巡り
昔から、漫画、アニメ、ゲームなど典型的なオタク趣味だった私に、「カフェ巡り」というお洒落な趣味を持つ知人は一人もいないと思っていた。私に至っては、待ち合わせの時間潰しのため喫茶店に入ることすら出来ない。コーヒーが苦くて飲めないという子供じみた味覚のせいでもあるし、「意識低い系」の人間は立ち入ってはいけないのでないかという思い込みのせいでもある。
それほど、カフェや喫茶店に縁のない私だからこそ忌憚なく書くことのできる、カフェ巡りを巡る数奇な物語に、少々お付き合いいただきたい。
「突然の質問で申し訳ありませんが、警察庁情報通信局情報通信企画課のS・Tという方をご存じですか?」
十年近く連絡をとっていなかった大学の研究室時代の後輩N(女性)から、携帯のキャリアメールに連絡が入ったのは、令和三年の秋のことであった。なお、令和四年に警察庁に組織改編があって、現在は当該所属が別の名称に変更されていることは申し添えておく。
「残念ながら聞き覚えがないので、知り合いではありません。何関係の人ですか?」
私は、メールや手紙など、後に残る文面については、できる限り敬語を使うようにしているというポリシーがあるため、ひどく他人行儀に見られることがある。
「私も知らない人です。SNSでダイレクトメッセージが送られてきて、少し話が聞きたいと面会を求められています」
「怖いですね。何か思い当たる節はないんですか?」
なお、警察庁は各県警を総括する立場であって、直接の捜査部門を持たないので、何かの事件捜査であるということは基本的にあり得ない。
「ないです。詳細については書けないそうなんですが、連絡先の電話番号が載ってました」
「たぶん警察庁の代表番号ですね。かけてみれば、実在する人物かどうか確かめられるし、何か話も聞けるのでは?」
「実在することはわかっています。出身の大学で講演をしているネット記事がありましたので。経歴を見る限り、私より少し若い女の人でした。電話はしてません。なんか怖いので」
名前の字面と情報通信局ということで当該人物が男性だと思い込んでいた私は、そこで一番驚いた。
「変なおっさんからのナンパじゃないなら、まあ、良かったですね。何にせよ気持ち悪いなら、別に無視しても構わないと思います」
「逮捕されたりとかしないですかね?」
「情通の職員ならたぶん技官なんで、逮捕権ないです(笑)」
今更ながら、何故Nが十年も連絡していなかった人間(私)に本件を尋ねてきたかについては、ここまでの会話の流れから察していただきたい。詳細については一身上の都合により書くことが出来ない。
その後、当たり障りのないやりとりをして、メールは途絶えた。私は、NがS・Tとの面会を断ったものと信じて疑わなかった。
そのNが、カフェ巡りを趣味としていたことを、私は全く知らなかった。私はSNSを一切やらない時代遅れの人間なので、友人・知人が普段どのような生活を送っているのか一切把握していないのだが、研究室時代の後輩によると、Nは結構な頻度でとあるSNSに投稿を行っており、その投稿の大半は立ち寄ったカフェとそこで食べたメニューの写真だったのだそうだ。Nは大手製薬会社でMRをしており、全国各地への出張の機会が多く、出張先で空き時間等を利用して様々なカフェに赴いていたという。……全くもって私には縁遠い話だ。
「でも最近、全然カフェの写真載せてなくない?」
令和四年の十二月のことである。研究室時代に助手(現在の助教)を務めていた先生が、栄転先の中国地方の大学から出張で数日間上京するということで、東京近郊に住んでいる当時のメンバー有志が何年かぶりに集まって酒宴を開くこととなった。普段出不精の私も、コロナ禍で大規模な飲酒会合がしばらく行われていなかったことの反動で、珍しく重い腰を上げて参加していた。Nは、私の斜め向かいの席で、正面(私の右隣)に座る、教育関係の仕事に就いた同期の男と主に話していた。
先の台詞は、その、私にとっては後輩にあたる男が発したものである。それを聞いた瞬間、Nが少し頬を引きつらせ、痛いところをつかれたという表情をした。だが、一瞬後には、まるで何事もなかったように表情を和らげ、出張の機会が減ったこともあって最近カフェに行かなくなってしまった、といった説明をした。コロナの真っ只中でもあんなに出張させられたのに、今頃になってオンラインで対応できるところは対応しろとか言い始めて我が社マジで終わってる、みたいな話から、自社の職場環境に対する悪口大会が始まって、カフェ巡りの話は有耶無耶になった。
しばらくして私がマスクを着けて手洗いに立ち、半個室に戻ってくると、おそらくそのタイミングを待っていたのだろう、入り口横に、店の用意したサンダルを履いてNが立っていた。
「少し聞いてもらいたいことがあるんですけど、この後、時間ありますか?」
「この後って、これの後? 家の方は大丈夫なの?」
午後七時に始まった飲み会は、三時間コースということで、午後十時までは続く。Nには子供が二人いたはずであった。
「子供は旦那が見てます。飲み会に行くという時点で、それは大丈夫なんです」
「ああ、そう。……どんな話か聞いていい?」
「去年メールした警察の件です。カフェの話だったんです」
あまりにも予想外な言葉が出てきて私は混乱し、Nが酔って脈絡のない話をしているのでないかと疑った。Nは酒を飲むとすぐに顔が赤くなる人間であって、マスクから覗く目元からだけでもそれは明らかであったが、存外に真剣な瞳が何かを訴えかけているように感じた。
私は、了解した旨を伝えたが、大人数の会合が終わった後に、どうやって二人だけで合流できるのか(しかもその両者が異性の既婚者という変に後ろ暗い設定のある状況付きで)、頭を悩ませなければならなかった。そんなことは無理だから、結局この話はなかったことになるのでないかと半ば本気で考えていた。
結局、十時十五分くらいに店を出て、二次会に行くという何人かと別れて駅に向かうことになったが、私とNだけ地下鉄駅を利用するため方向が違うという成り行きで、すんなりと二人だけになった。当然、Nは実家に向かうという名目の全くの出鱈目で全員を欺いていた。暢気なことに、私自身もN本人に告げられるまで本当に偶然向かう駅が同じなのだと信じていた。
Nは、もしかすると最初から行き先を決めていたのかもしれない、と思えるほど迷いなく、最寄りのネットカフェに入り、個室の、所謂カップルシートと言われるタイプの席を選んだ。レシートによると、入店時刻は午後十時二十八分だ。
私は、ネットカフェに入るのが生まれて初めてだったので、全てが物珍しく、落ち着かない気分だった。もちろん、それだけが理由ではない。今思えば、こんな、不貞を疑われた際にどう考えても言い訳のきかない状況を甘んじて受け入れていたことが不思議でならない。このような経験をすることは二度とないと思う。
「ここは、大丈夫な場所なんです」
Nは、コートを脱いでお互いがフリードリンクをとってきて、横並びの席に座って人心地着いたようなタイミングで、呟いた。私は、視線のやり場と身の置き方の全てで正解がわからず、両腕を組んで、話を促した。
「三月に会いました。S・Tさんに。警察庁の一階のカフェで」
Nは、律儀にストローを使ってウーロン茶を一口飲んだ。マスクを外したままのその頬は、まだ酔いが冷めやらぬように赤く火照っていた。やけに澄んだ眼が、一切私に向けられることなく、PCのモニタか、あるいはそこに移りこむ反転した世界を見つめていた。
「私は、マークされていました。犯罪者予備軍として」
現実でそんな言葉を聞くことになるとは思わなかった。
Nの言うことには、私にメールで相談した後、しばらくS・Tからのダイレクトメッセージを無視していたらしい。
「彼女は、何日かに一度、メッセージを送ってきました。頻度が上がることはなく、とにかく一度会って欲しいと、説得する内容でした。その内に私は、S・Tさんがメッセージを送ってくるタイミングに法則があることに気付きました」
「法則?」
「カフェです。私がカフェに行った写真を投稿した時に、決まってメッセージを送って来るんです」
Nが、一瞬だけこちらを見た。私はこの期に及んでもなお、話の行き着く先を想像すら出来ずにいた。
「それは、何? もしかして偶然とかじゃなかったってこと?」
「そうです。彼女の究極的な目的は、私にカフェ巡りを辞めさせることだったんです」
「そんなことある? 世界で一番無害な趣味じゃない」
「私もそう思っています。……そう思っていました」
Nは、何から順に説明すれば良いのか逡巡しているようだった。
「昨年度末、ちょうど、霞ヶ関に行く用事が出来たんです。近くまで行くなら、会ってみても良いかなって思いました。他の場所で会うより安全かもしれないですし、物のついでということもあって、S・Tさんに、その旨、初めて返信しました。警察庁の一階で待ち合わせしました」
「正確には、あの建物は合同庁舎二号館って言って、警察庁は上の方にしか入ってないんだけどね。二階にもう一段階セキュリティがあって、そこから先が警察庁」
Nは目に見えて苦笑した。
「S・Tさんも、最初にそんなようなことを言ってました。あの建物、入るのに予約番号とか身分証とか必要なのに、まだ警察じゃないのかって、ビックリしました。迎えに来たS・Tさんに連れられて、館内のカフェに行きました」
合同庁舎には、Dから始まるメジャーなコーヒー店が入っている。
「S・Tさんは、眼鏡をかけた大人しそうな女性でした。いかにも理系で、切れ者感はある、合コンとかには誘っても絶対に来ないタイプ。ご足労いただいたせめてものお礼に、とコーヒーを奢ってもらいました」
「肩書きは? 課長補佐? 係長?」
「何とか補佐って言ってたような気がします。名刺、家にありますけど忘れてきました。偉いんですか?」
その若さで課長補佐ということは、情報通信技官のキャリアに違いない。
「彼女は、手に持っていたファイルから一枚の紙を取り出して私に示しました。それは、私のSNS投稿を全て辿って、私が行ったカフェの日付と名前、そして所在地を一覧にまとめたものでした」
「もしかして、それがいつも何かの事件現場の近くで、犯人と疑われたとか?」
捜査は警察庁の仕事ではないので、おそらく違うだろうことはわかっていたが、私に思い付いたのはそれくらいだった。
「私も、最初そう思ったんです。表の一番右の列に、事件名がいっぱい書いてあったので」
「事件名?」
「そうです。警察庁広域重要指定何号事件、みたいなのが、ずらっと」
私は、その時初めて背筋がゾッと粟立つのを感じた。
「Nさんが巡ってたカフェが全部、重大な凶悪事件の事件現場だったってこと?」
Nは小さく被りを振った。
「それも少し違います。私が行っていたのは、凶悪な殺人事件の被害者がその加害者と一緒に生前最後に目撃されたお店ばかりでした」
私は、何を聞けば良いのかわからなくなった。
「どういうこと? 日本の喫茶店はどこも何らかの事件に関わっているってこと?」
「小さな犯罪まで含めれば、あるいはそういうこともあるかもしれません。でも、さすがに、どこもかしこも殺人事件が起こってるってことはないでしょう」
米花町でもあるまいし、とNは漫画作品の架空の町の名前を挙げて皮肉げに笑った。
「Cという名前の、カフェ紹介サイトがあるんです。サイト管理人が厳選したお店について、丁寧に取材していて、お店のオーナーのインタビューとかも載っていて、食レポもわかりやすくて本当に美味しそうで、行ってみたくなるところばかりなんです。実際に私は、ほとんどのカフェを、Cを参考にして選んでいました。駅から遠いところも、わざわざタクシーで行ってたくらいなんですよ」
「……そのサイトが、凶悪殺人事件の関連場所ばかり紹介している、ということ?」
「S・Tさんが言うには、そういうことのようです」
「何のために?」
「わからないそうです」
「わからない?」
「サイトの管理人とも連絡をとろうとしているそうですが、返信がないと言ってました」
私は、何を聞かされているのだろうか。
「そもそもの発端は、殺人事件の加害者のインターネットアクセス履歴に何か共通の要素はあるか、という研究からだそうです。解析の結果、ダークウェブや、薬物取引のためのSNSなど、いかにもアンダーグラウンドなものが多かったそうですが、何故か、カフェ紹介サイトが比較的上位に上がってきたみたいで。共犯者との打ち合わせや被害者との待ち合わせなど、凶悪犯罪者も喫茶店を多用するというのがその理由だと考察されていたんですけど、S・Tさんは、あることに気付いてしまった」
「あること?」
「特定の紹介サイト、あるいはそこで紹介されている喫茶店そのものが、殺人事件を惹起している可能性があると」
「まさか。さすがにそれは……」
私は絶句せざるを得なかった。喉がカラカラに渇いていたが、いつの間にか自分用に持って来ていたジンジャーエールは空になっていた。
「S・Tさんは、データを丁寧に解析し、容疑のあるカフェ紹介サイトを五つ絞り込みました。さっき言ったCは、その中で最も凶悪事件の発生と相関の高いサイトだと聞きました。そして、紹介されているカフェに何かあるのかと情報を洗って行った結果、全て、生前の被害者が最後に目撃された場所だという共通点が見つかったのです」
「ちょっと待って。時系列がよくわからない。それは、解析対象となった凶悪事件の加害者が、事件前にCを閲覧していて、さらに事件時に使った喫茶店も、その後Cで紹介されている、ということ?」
「結果的にそういうことも多いし、別に全然関係ない昔の事件の店も紹介されている、ということのようです。昭和の事件なんかだと、お店が一度潰れて、居抜きで別の名前になったような例も紹介されているようです」
「ただとにかく凶悪な殺人事件に関係した店だけが厳選されている、と」
「そうです。ちなみに、Cだけじゃないそうです。もう少し対象を広げて、殺人事件現場となったお店や、犯人が事件前後に目撃されたお店、犯人が経営に関与していたことがあるお店なども含めて紹介しているサイトが、いくつか見つかったということです。さっき絞り込んだと言った、他のサイトのことだと思います。ただ、Cの厳選の仕方が一番、何と言うんでしょう、犯罪の惹起に効率が良いと言うか、効果が高いと言うか……」
「それは、何? 別に、事故物件を知らせるのが目的のサイトではないんだよね?」
「そうです。Cも含めて、過去に陰惨な事件がありました、なんて微塵も感じさせない平穏なページばかりです。だからわからないんです。善意の可能性すらある、と言ってました。事件に巻き込まれて、風評被害みたいなかたちで売り上げが落ちてしまっただろうお店を応援するために、そういう店ばかり紹介しているとすれば、美談ですらあります。お店のオーナーにも生活はあるわけで、コロナ禍で大変だった時期には、少しでも客足を伸ばすのに寄与していたという意味で、救世主的存在だったかもしれません。なので、そういうカフェ紹介サイトを閉鎖させることは絶対に不可能だと言ってました」
「完全な悪意から紹介されていたとしても?」
「それを証明することは誰にも出来ません。また、この件は、相関関係があるというだけで、因果関係は説明出来ません。勿論、警察がそんなことを根拠に動くこともありません。S・Tさんは独自に活動しているに過ぎないそうです。Cを始めとするカフェ紹介サイトの影響でカフェを巡っていると思しき人を見つけて、注意喚起のために声をかけているそうです」
「犯罪者予備軍としてマーク?」
「私はそう思った、というだけですけど、言ってることはそういうことじゃないですか? 凶悪事件の加害者になる可能性が高いらしいので」
Nがこちらに向き直り、急に左手を伸ばして来たので、私はびくりとした。このネットカフェに二人で入ったのが、私の生前最後の目撃例になるという妄想が一瞬だけ頭を掠めたが、それが現実になることはなかった。
Nは私の眼の前に左手をかざしてヒラヒラと振った。結婚指輪を付けていないことに、私はようやく気付いた。
「S・Tさんに会ってから、さすがに、カフェ巡りを辞めました。四月から少し出張が減ったのも嘘じゃないですけど。ちょうど春頃は旦那と上手くいかなくなったり、色々が重なってたし、S・Tさんと会ってなかったら、本当に何か仕出かしてたかも」
「まさか。そんなこと出来るタイプでもないでしょ」
「自分でもそう思ってたんですけど、興味本位で私が最後に行ったT県のカフェの事件詳細をウィキペディアで見てみたんですよ。驚きました。犯人の女の生い立ちが、意外と普通だったんで。誰がそういうことをしてもおかしくないのかもしれないですね」
犯罪の三要件は、動機と機会と正当化だという話を聞いたことがある。その全てが揃ったところに、犯罪が起こる。では、その三要件が揃うかどうか、それを決めるのは一体何だというのだろう。
「事件後の加害者家族の悲惨な話とか読んだら、さすがに思い止まりたくならない?」
私は、至極真っ当なことを言っているつもりだったが、Nは、とっておきの冗談でも聞いたみたいに、おかしくてたまらない、という笑みを浮かべた。
「勿論。そんなの読むまでもなく、もう大丈夫ですよ。私は上手くやってます。仕事も家庭も順調なもんです」
「……それならいいけど」
「もうすぐ終電ですけど、どうします?」
Nは、他に何も入らなさそうな小さなカバンからスマートフォンを取り出し、時刻だけ確認してすぐにしまい込んだ。私の方をチラリと見たが、すぐに立ち上がるような素振りは見られなかった。
私は動揺した。カラカラに渇いた喉で、店を出ましょう、という、それ以外にない選択肢を口にした。Nは、私に対して、信頼は出来るけれどつまらない人間だ、というようなことを婉曲に伝えて来た後、
「私に何かあったら、S・Tさんに謝るという大役をお願いしますね」
と、その日一番の冗談を口にした。
勘の良い方なら既に気付いていたかもしれないが、Nの身に何も起こっていないなら、そもそも私がこの作品を書こうと思うわけがない。
Nが何を仕出かしたのか、私は今も報道以上の情報を持たない。週刊誌で特集が組まれたこともあるようだが、読む気になれなかった。何をする気も起きず、吐き気が止まらない日が一週間ほど続いた。これは本当のことだが、Nの件で私のところに捜査員が聞き込みに来たことは一度もない。もし来たら、このカフェ巡りの話をしてやろうと半ば本気で考えているが、いざ来たら、どうせ当たり障りのない話しか出来ないだろう。私はそんな人間だ。
カフェ紹介サイトCに、ニュースで何度か流れていたあの店が掲載されているのかどうか、私は知らない。知りたくもない。
令和五年三月、私は遅ればせながらS・Tを捜したが、見つけることは出来なかった。警察庁を辞めた形跡は見当たらなかったので、公安関係の、機密性の高い部署に異動してしまったのだと思っている。
私には、S・Tに会って、伝えなければならないことがある。Nは、カフェ紹介サイトやカフェ巡りのせいで犯罪者になったのではない。S・Tと、そして私が、犯罪の三要件の一つである「正当化」をNに提供し、背中を押してしまったせいだ。そう、伝えなければならない。
カフェ巡りは、誰の害にもならない安心安全でお洒落な趣味に過ぎない。
何度だって繰り返す。
カフェ巡りに危険性なんてない。あるわけがない。
時折、Nが出て来る夢を見る。Nは、何度だって言う。あの日の言葉を口にする。
「ここは、大丈夫な場所なんです」
私があの日伝えそびれた言葉は、夢の中でも言えた試しがない。
「大丈夫じゃない場所なんてないよ」
嘘でも良いから、何のことかわかっていなくても良いから、私はとにかくあの時、確信に満ちた表情でそう伝えてやるべきだった。
現実の被害者がいることは重々承知している。けれどもフィクションの世界の中でくらい、せめてNの精神の安寧を祈らせて欲しい。
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