第5話

その日の夜であった。


父は残業で工場にいたので、食卓にいなかった。


この日の夕食は、義母とふたりだけで食べていた。


ダイニングのテーブルの上には、白ごはんとみそしると目玉焼きとソーセージとブロッコリーのいためものときんぴらごぼうとひじきとおつけものが並んでいた。


この時、アタシはごはんをひとくちも食べていなかった。


義母は、優しい声でアタシに言うていた。


「こずえちゃん…どうしたのかな?」


義母が言うた言葉に対して、アタシは突き放す声で『ごちそうさま!!』と言うたあと、おはしを置いた。


義母は、ものすごく心配な声で言うた。


「こずえちゃん、どうしたのよぉ〜」

「食べたくないからごちそうさまと言うたのよ!!義母おかあさんは一体なに考えているのよ!!アタシは思い切り怒ってるのよ!!」

「こずえちゃん、なんで怒っているのよぉ〜」

義母おかあさんはアタシにどうしてほしいのよ!?」

「どうしてほしいって…こずえちゃんにごはんを食べてほしいといよんよ…こずえちゃんが受験勉強に取り組めるようにと思っておいしい目玉焼きを焼いたのよ。」

「いらないことをしないでよ!!」


この時であった。


(フギャーーーーーーーーーーーーーーーーー!!フギャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!)


赤ちゃんがよりし烈な泣き声をあげた。


義母は、ものすごく困った声で言うた。


「こずえちゃん…こずえちゃんが怒鳴り声をあげたから赤ちゃんが激しい声で泣いてるわよ…」


アタシは、義母に対して怒りをこめて言うた。


「義母さん!!アタシはそうとう怒っているのよ!!」

「こずえちゃん…どうして義母おかあさんに目くじらを立てて怒るのよ…義母おかあさんにどんな落ち度があるのよ…」

「悪いことをしたから怒ってるのよ!!どうしてやくざの男を家に入れたのよ!?」

「ギンゾウさんを家に入れたことはあやまるわよ…義母おかあさんは今しんどいのよ…家のことと赤ちゃんのお世話で手がいっぱいなのに…」

「何なのよ一体!!あんたはギンゾウをまだ愛しているのね!!だから昼の昼間からイチャイチャしていたのね!!ドサイテーよ!!」


思い切りブチ切れたアタシは、義母が作った料理を床にぶちまげたあと、自分の部屋に逃げた。


アタシに怒鳴られた義母は、両手で頭を抱えながら座り込んだ。


赤ちゃんは、よりし烈な泣き声をあげながら義母を求めていた。


さて、その頃であった。


ギンゾウは、仲町なかまちにある赤ちょうちんののみやさんにいた。


時は、カンバン(閉店時間)40分くらい前だった。


カウンターの席に座って酒をのんでいるキンゾウは、メイテイ状態であった。


店のユーセンのスピーカーから宇都宮さだしさんの歌で『可愛かわいい女』が流れていた。


カウンターごしにいるおかみさんは、怒った声でキンゾウに言うた。


「あんたーね!!もういいかげんにしてよね!!あと40分でカンバンになるから早く帰りなさい!!」

「帰るよぉ…だけど…帰る家がないんだよぅ〜」

「あんたーね!!甘ったれるのもいいかげんにしなさいよ!!あんたーは、なんで喜多方のラーメン屋さんのお仕事を投げたのよ!?」

「おかみさん…そんなキツいことを言わないでよぉ…」

「キツい声で言うわよ!!あんたー!!カンヅメ工場の社長さんに『元カノには近づきません…ラーメン屋さんで一からきたえなおします…やくざ稼業から足を洗います…』と言うたあと誓約書を書いたわね!!…あんたー!!」


おかみさんからどぎつい声で言われたギンゾウは、酔った勢いで『おぼえてねー』と言うた。


「誓約書を書いたおぼえはないよ…あのクソジジイが書けと言うたから仕方なく書いただけだ…」


おかみさんは、ものすごく怒った声で言うた。


「あんたー!!」

「なんだよぅ〜」

「あんたーはやっぱりダメね…ズウタイだけはでかいわりに、考え方はチャイルド以下ね!!」

「ああ!!そうだよ!!オレはチャイルドだよバカ!!」

「ますますはぐいたらしいわね!!」

「オレは喜多方に帰りたくねえんだよ!!」

「甘ったれるのもいいかげんにしなさいよ!!」


おかみさんから怒鳴られたギンゾウは、しくしく泣きながらこう言うた。


「オレ…ラーメン屋さんを続けていく自信がねえんだよ…大将が近いうちに東京に新規の出店の予定があると言うたあと…オレを東京の店の店長にすると言うたのだよ…そう言われたから…オレ…」

「あんたーはなさけないわね!!」

「けっ…オレは人生大失敗したのだよ…やくざ稼業の世界に帰りてーよ…オレの実父オヤジがやくざだったからオレはやくざになった…やくざの子はやくざしか生きる道がないんだよぅ…ちくしょーちくしょーちくしょーちくしょーちくしょーちくしょーちくしょーちくしょーちくしょーちくしょーちくしょーちくしょーちくしょーちくしょー…」


ギンゾウは、このあとビンに残っているいいちこ(麦しょうちゅう)を一気にのみほした。


その時であった。


「ジャマするで!!」


店内に、竹宮たけみや構成員チンピラ4人が入った。


竹宮たけみやのアニキ!!」

「どないした!?」

「ギンゾウを見つけやした!!」

「おい、引っ張り出せ!!」

「へえ!!」


ギンゾウは、竹宮たけみや構成員チンピラ4人に引っ張り出された後、裏の露地へ連れて行かれた。


ところ変わって、酒場街の裏の露地にて…


(ドカッ!!ドカッ!!ドカッ!!)


構成員チンピラ4人は、ギンゾウをボコボコに殴りつけた。


ギンゾウは、約5分に渡ってボコボコに殴られたあと竹宮たけみやの前に倒れた。


アグラをかいて座っている竹宮たけみやは、競馬ブックに記載されている出走表にちびた赤えんぴつでマーキングしながらギンゾウに言うた。


「おいコラギンゾウ!!よくも田嶋うちのくみに対していちゃもんつけたな!!」


ボコボコに殴られたギンゾウは、よろけた身体で起き上がったあと竹宮たけみやに言うた。


「そんなことは知らんワ…いちゃもんつけてきたのはあんたらの方や…」


ギンゾウが言うた言葉を聞いた構成員チンピラのひとりがギンゾウのエリクビを思い切りつかみながら言うた。


「なんやクソがキャ!!」


ちびた赤えんぴつでマーキングしている竹宮たけみやは、不気味な声で言うた。


「おいギンゾウ…田嶋うちのくみにいちゃもんつけたらどないなるのかを知らんのか?」

「知らんのかって…」

田嶋うちのくみにいちゃもんつけたヤツラは、ダンプカーでぺちゃんこにつぶれて死んだんや…オドレもそうなりたいのか?…どないや?」

「ダンプにひかれようがなんだろうが…オレは…死なないぞ…」


この時、もうひとりの構成員チンピラが刃渡りのするどいナイフを取り出した。


もうひとりの構成員チンピラは、ナイフでギンゾウをイカクしながら言うた。


「オドレはなんで組長のれこをドロボーした!?」

「ヒィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ~」


ナイフでイカクされたギンゾウは、ものすごくおそろしい悲鳴をあげながら許しごいをした。


「し、死にたくねぇ〜…死にたくねぇ〜」


竹宮たけみやは、不気味な声でギンゾウをイカクした。


「おいコラ!!なんで組長のレコをドロボーした!?はけ!!…はけといよんのが聞こえんのか!?」


(ドカッ!!)


「グワアアアアアアアアアアアアアアア!!」


思い切りブチ切れた竹宮たけみやは、ギンゾウのわき腹を右足で激しくけとばした。


このあと、ギンゾウは構成員チンピラ4人からよりし烈な暴行を受けた。


竹宮たけみやは、構成員チンピラ4人にボコボコに殴られているキンゾウをニヤニヤした表情で見つめた。



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