いいわけないし

江戸川台ルーペ

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 後世に残したい知識として、12cmヒールのパンプスで全速力するのはやめておけ、という事だ。そもそも12cmのヒールを履いて全速力しなきゃならないシチュエーションって何? って事なんだけど、①遅刻②戦時中③パンプスダッシュダイエット中 ──って馬鹿か? ④は縁起悪いからパス。正解は⑤の「浮気現場からの逃走」ってやつ。ここが鶯谷の橋が掛かってるところで、薄明るい午前5時の私は着の身着のまま、さっきラブホの二階の窓から飛び降りて全力ダッシュで逃走している次第。現場からは以上。足、痛くないかって? 痛いよ。飛び降りたところがゴミ集積場だったから助かったよね。偶然粗大ゴミの日で、ゴミ捨て場からマリトッツォみたいに溢れんばかりに羽毛布団が捨てられてたなんて奇跡みたいだし、ガチ映画みたいだったな。飛び降りた瞬間、羽毛がブワーって舞ってさ。上から降ってきた台詞も「おい! 待て!」だよ? ぐっとくる。


 っていうか、既婚の男と会ってた私も悪いけど、そもそも、私はそもそもって言葉が好きみたいだが、そもそも七つ年下の女と鶯谷のやっすいラブホで落ち合う旦那と結婚したアンタの人生に疑いをもったほうがいい。アンタが結婚したその男、もうアンタに飽き飽きしてっから。まともな男、他の女に手なんか出さないって。教育係の冴えないおじさんがさ、まさかこの私に「この後、食事どうかな? 仕事の話もアレだし」って、アレってなんだよクソが。本当にクソな見た目だし、クソな仕事ぶりだし、クソなファックしやがるし、もう全然良いところがない。唯一クンニだけは上手くない事もなかったが、上手いっていうか忍耐強い性格が偶然合ってたってだけかも知んないな。ずっとねちこくやってるからね。犬だ犬。ワンワンっつって、ダッシュしてんのは今何故か私なんだけど。いわば社会奉仕してやったこの私に一体どこまで走らせるんだよ。

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