『言い訳 うそかまことか』
龍宝
「言い訳 」
「――悪いけど、休日は妹の世話があるから」
昼休みの教室。
またひとり、無謀にもデートの誘いを持ち掛けた男子生徒が撃沈した。
言うだけのことは言った、とばかりに置いていた箸を手にした少女――夏目夕佳に、クラスのあちこちから「またか」といった視線が送られる。
何事もなかったようにお弁当を食べ始めた夕佳の近くで、ばっさりと断られた男子生徒はしばらく固まっていたが、やがてすごすごと肩を落として去っていった。
違うクラスからわざわざ押し掛けてきて、戦果なしで帰るのはさぞみじめな思いだろう。
向かい合った席で一部始終を目撃していたあたし――三浦真希は、菓子パンにかじり付きながらその背中を呆れつつ見送った。
「懲りない連中だね、しかし」
「まったく。話したこともないのに、オッケーが出ると思ってるんだから」
いつものことながら、夕佳が不機嫌そうにぼやく。
あたしの親友は、非常にモテる。
なんせ顔がいい。身長もある。成績の方はそれほどでもないけど、馬鹿じゃあない。
ぜひともお付き合いをしたいと群がる男子は後を絶たず、時にはその中に女子生徒が混じるなんてことも――。
声を掛けてくる相手は様々だが、夕佳の返事はいつも決まっていた。
〝妹が待ってるから〟、だ。
共働きの両親に代わって、妹のご飯を作らなきゃいけないんだとか、宿題を手伝ってやらなきゃいけないだとか、とにかく夕佳の口から出てくるのは妹のことばかり。
入学して半年もする頃には、夕佳が特定の恋人を作る気がないであろうことは、察しの良い人間なら気が付いていた。
ただ〝男除け〟の言い訳として妹の名前を出しているのだろう、と。
「妹の世話があるから、ね」
「……何か?」
「世話してもらうから、の間違いじゃない?」
「うっさいよ」
彼女は恋人がいらないわけじゃない。
夏目夕佳が、妹のことをそういう意味でも愛していることを、あたしだけが知っている。
『言い訳 うそかまことか』 龍宝 @longbao
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