浮気男の末路

@chauchau

次の日、後輩には笑われる。


 彼女の視線は冷たかった。


 言い訳のしようなどなかった。悪いのは俺だ。どれだけ綺麗な言葉を重ねようとも俺が浮気をした事実は消すことができない。身体にこびりついた匂いが俺の所業を何より雄弁に物語っている。

 彼女は普段から俺にあからさまに甘えてくることはない。それでも、帰宅すると必ず部屋のなかから顔を覗かせてくれる。今日も無事に帰ってきたことを一瞥するとすぐさま引っ込んでしまうけれど、必ず確認してくれる事実に愛を感じていた。それが、今日だけは一瞥ではすまなかった。すぐさま浮気の気配を察知した彼女は、ただ静かに俺を見つめ続けている。まるで、いますぐに家から出て行けと言わんばかりの視線で俺を見る。


 後輩の付き添いだったと真実を語るべきか。いや、ずば抜けて頭の良い彼女のことだ。最初の一歩はそうであったとして、あの場、あの時、俺が楽しんでいたことをすぐに理解するだろう。そうであるとするならば、下手に後輩のせいだと言い訳をするほどに彼女の視線は更に冷たくなるはずだ。

 物で誤魔化すか。確かに俺の手には、コンビニの袋が握られている。普段では買うこともないほどの高級な食事を見せれば。……駄目だろうな。これを献上するのは彼女が俺を許してくれたあとの話だ。順番を間違えれば、彼女は更に怒り出すことだろう。


 そうだ。

 順番を間違えてはいけない。


 まず俺がするべきは誠心誠意に謝罪することではないか。

 ああ、彼女が待っている。冷たい視線、牙までむきはじめた。それでも彼女は待ってくれている。誰を。俺に決まっている。俺の言葉を待ってくれているんだ。まだ、彼女は俺のことを完全に見捨ててはいない。


「ごめんなさい! 二度と浮気はしません!!」


 土下座だ。

 プライドなどかなぐり捨てて、示す誠意の全てを謝罪にこめた。情けない俺に、彼女はたった一言。


「にゃー」


 二度と、猫カフェには行かないと誓います。

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