異世界転移と思ったら、生まれ故郷でした

凰 百花

第1話 失せ物探しの魔方陣

「太一郎。一緒に帰ろうぜ。で、お前が昼休みに話していた小説貸してくれよ」

丁度帰り支度をしているところへ、声をかけてきたのは同級生の優弥だ。

「優弥、今日、部活はないのか。いいよ。ちょっと待ってて」

優弥とは家が近所なので小学校の頃からの付き合いだ。

中学に入って身長が伸びた優弥は小柄な自分とは頭一つ分の差があり、見下ろされる感じになるのがちょっとな。

この頃は近くに来られるとちょっと上を見上げるようになるのが癪なんだが、それを言うと周りに誂われそうで口にはしない。

中学に入る前は同じぐらいの身長だったのに。

クラスの女子からは「日向くんは、そのままで可愛いいから、いいじゃん」とか言われてショックをうけた。

まだまだ成長期、自分だってこれから大きくなるはずと風呂上がりに毎日牛乳を飲んでいる事は内緒にしている。

 学校を出て、家へと向かっていた。昨日も、今日も、そして明日も同じ道を帰る道。それなのに突然、足元から白い魔法陣が浮かび上がってきた

「え、なんだ、これ」

驚いて立ち止ったが、白い魔法陣の上に立つ自分の足元が徐々に光の粒になって消えていくのが見えた。

「太一郎!」

パニックになりながらも優弥の声で正気に返り、優弥が魔法陣から引っ張り出そうとして伸ばしてくれた手をつかもうとしたが、その手さえも徐々に光の粒になって消えていく。

「優弥!」


太一郎は光の粒になって魔法陣とともに消え失せ、彼のいた場所には、幼児の靴が一足ポツンと残っていた。


「ここは?」

気がつくと、知らない部屋に立っていた。

何が起きているのか、頭の中は混乱して動けないまま唖然と立ち尽くしていた。

学校の教室ぐらいの広さの場所で、足元にはさっきまで光っていた魔法陣が白い線で描かれていた。

魔法陣が描かれている床は漆黒で滑らかで硬質な材質のようだが、まるで一枚の石でできているかのように切れ目などがない。

壁は少しクリーム色がかった白で、大きな木製の観音開きの扉が正面にある。魔法陣の外、扉と自分の間に見知らぬ壮年の男と女性が立っている。

「あの子が、カエンなの?」

女性が戸惑いながらそう呟いた。

「魔法陣は間違いなくお預かりしたご子息の使用品から持ち主の痕跡を辿って、ご子息をここに送り届けてくれたはずです。その代わりにご子息のいた場所にはお預かりした品物が残って、入れ違いになります」

男性の方も戸惑っているようだ。

「でも、あの子はまだ2歳だったのよ。行方不明になってから2ヶ月しか経っていないわ。どうみても彼は2歳には見えない」

「もしご子息が見つけられなかったのならば、ここには何も現れないはずです。別の人物が現れたという方が魔方陣の理論的には考えづらい。可能性としては、ご子息は界渡りしたのではないでしょうか。この世界とは異なる世界では、時間の流れが違う場所もあると聞き及びます。この世界の2ヶ月がかの世界の十数年の流れになった可能性が考えられます。界渡りであれば、ラリックス商会が八方手を尽くしても見つけられなかったのも頷けます」

二人の会話を耳にはしているが、何がなんだかうまく考えられなかった。

(ここはどこだ、あの人達は何者だ)

それでも徐々に会話の中身が自分自身のことを言っているのがわかってきて、どうも彼らのせいで自分がここにいることがなんとなく理解できてきた。

ラノベにあるような異世界転移というやつだろうか。

でもここには王や王女なんかはいないようだ。目の前の二人は一般人のそれだ。それにここに自分が現れたことは、彼らの想定外だったようで戸惑いも見られる。

人違いで連れてこられたのだろうか。

二人の話を聞いていると、どうやら言葉は理解できているみたいだし危害を加える様子ではなさそうなので、こちらから話しかけてみようと考えた。

「あの、ここはどこですか。なぜ僕はここにいるのでしょうか。僕を家に返してください」

先程から話をしていた女性がこちらに向き直ると、決心したように手を差し伸べてきた。

「そう、ね。一緒に家に帰りましょう。でも、その前に神殿に寄りましょう。神官様に親子鑑定をしてもらって息子のカエンだと証明していただかないと。このままだとあの人が何を言い出すか」

(いやいや、何言っているんだこの人)

思わず後退った。

「僕は貴方を知りません。そのカエンっていう子ではないです。僕は日向太一郎です。人違いです。元の場所へ返してください」

「ヒナタタイチロウ君、急にこの場所に連れてこられて混乱していると思う。でも、この御婦人、ラリックス夫人と神殿で証明してもらえればわかるが、君は夫人が呼びかけたカエン君でこの人のご子息のはずだ。多分、君が2歳の時に界渡りをしたのだろう。ここは君の知っている世界ではないかもしれない。今はお互いに混乱していると思うし、こちらからの一方的な言い分を信じられないのもわかるのだが。この失せ物探しの魔法陣が見つけられなかったことはあっても、間違えることはなかったのだ。もし万が一、神殿で君が別の人間だというのならば、ここへ戻ってきてくれ。元の世界へ戻る方法を考えてみるし、帰れるまでは僕が責任を持って面倒を見よう。君の世界にはカエンくんの靴が残っているはずだ。それを手がかりに君の元いた場所を調べることができるだろう。いや、君が神殿に言っている間に調べておこう。だから、取り敢えず神殿に行ってくれまいか」

「ごめんなさい。混乱させちゃったわね。君がカエンでないならば、ちゃんと元の世界に戻れるように私も協力するわ。でも、カエンならば一緒に居てほしい。カエンであるかどうか、どうか調べさせて、お願い」

女の人の声は暖かで、どこか懐かしい感じがして余計に戸惑った。

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