幽霊どーん!

「と、いうと?」

 ヒーデルックさんの言う私のせいとは。そもそも、魔術をそのままにしておくような人には見えないけどなぁ。

 エレインは思いながら彼女の言葉を待った。

「これには色々と理由があるんです。実は、私はもう卒業するためにやるべきことは全部やってしまったので夏休みからは自由に自分のしたいことをしようと思っていたんです。図書館で調べたりとか先生に聞いたりしてもそこまで興味のそそられるようなものが中々なかったんですけど、ふと一年生の時のことを思い出したんですよ。……みなさんは、この学園には七不思議があるのを知っていますか?」

 学園七不思議。どの学園にも大小はあれど噂が蔓延っている。もちろんこの学園も例に漏れない。だけど三人とも入学してからそういった類の話を聞いた記憶は一切無かった。

「いや、無いな。三年前に流行っていたなら今も噂されていてもおかしくないはずが」

「流石に知らないですよね……。無理もないです、実は昨年その七不思議の一つが解明されてしまって他の七不思議も嘘だろうってみんな興味を無くしてしまったので」

 その七不思議のひとつというのが、学園端にある研究棟という場所で夜な夜な甲冑のようなものが歩いて回っているという噂だったが、それは理事長のバエルが導入した魔術によって動いていた巡回警備であることが理事長本人の口から語られたことで他の七不思議も同様に先生の誰かがやってるんじゃないかという疑問が芽生えたことで終止符が打たれてしまったらしい。

 それで誰も気に掛けなくなった七不思議だが、することのないヒーデルックはふとそんなことを思い出して改めて七不思議について調べてみた。すると、幻影についての七不思議だけはまだ現象として存在していることが分かったのだ。

「それで色々と調べてみたら、この辺り一帯は昔は紛争地帯だったみたいでたくさんの死体が転がっていたみたいなの。それで、この地を治めるっていう意味も込めて学園が作られたんだって。でも紛争で亡くなった人はそんな事で成仏できるはずもなく、日々魔術が使われることでその怨念は魔力として消費されていくけど時々実体化することもあるみたい」

 たくさんの人が死んだ血が魔術を使う上で肥沃な土地という表現になるのは少し悲しい気持ちもあるけど、実際この学園で魔術を使うと少しだけ魔術が発動しやすい。そういうことだったとは知らなかった。

「それで調べていたときに、間違えてヒーデルックさんの魔術を使ってしまったって事ですか?」

「端的に言うとそういうことになります……」

 とても申し訳なさそうな顔で頭を下げる彼女だが、もうすでに起こってしまっている事なので仕方がないと思う。むしろ今までそういったものを呼び起こしていないだけすごいと思う。

「でもそれなら、すぐに魔術を止めれば良いんじゃないの?」

 レイルのそんなとんちんかんな答えにヲルスは半ば呆れながら言う。

「あのな、魔術は基本的に不可逆なんだ。物を燃やすことはできても、燃えた物を燃える前に戻すことができないのと一緒だ。そんなことができるのはせいぜい持続的に発動する魔術だけだ。お前の飛行魔術だって同じだろ」

 確かにレイルの魔術こそ典型例だ。持続的に発動していないと飛べなくなる。ヲルスって意外と説明上手なんだ。

「なるほど!じゃあヒーデルックさんは持続系の魔術じゃ無いから発動しちゃった時点で手遅れってことだね!」

「いや……うん。そうだよ」

 私はなんとか踏みとどまってレイルの言ってることは正しいと認める。それを聞いてヒーデルックさんは余計に申し訳なさそうにする。そりゃそうだよ。そんなこと言われたら私だって顔を見せられなくなる。

「もういいだろそれは。終わったことなんだから。それよりその霊をどうにかするってことが大事なんだろ。そういえば、以前はイレギュラーだっただろうから聞かなかったが、本来降霊を完了した後はどうするのが普通なんだ」

「これはヲルスくんにも言ってなかった気がするね。本来は魔力を持たない者の方が呼びやすいから他の動物とかを降霊させることが多いの。そうして降霊させた動物と契約を結ぶことで死ぬことのない使い魔が生まれるって感じかな。魔術師として戦うってなった時にはその使い魔で戦うことがほとんどだと思うよ」

 調教師とはまた違う戦い方ができるということは良いけど信頼関係として構築できるものはあまりない。すでに死んでいる者であるからそこに何か発展する関係は無い。一長一短がどちらにもある気がする。

「それって人の場合はどうなるんですか?」

 今回降霊してしまったのは人型。そういう場合って意思疎通はできるのかな。

 気になってので聞いてみると、そう簡単な話では無いみたい。

「実はそれが一番の問題です。さすがに魔女メイレイみたいに規格外の存在だとむしろ主導権は奪われてしまうんですけど、普通の人だと主導権はこっちにあります。けど基本的に言うことは聞かないと思った方が良いです。人と人なんで私もそこはそういうものと割り切ってます。それにここで亡くなっている人は紛争で戦い命を落とした人達です。こんな見ず知らずの人に蘇らせてもらったとしてもそれで忠誠が覆るほど心が柔軟な方々ではないですよ」

 すごく前途多難な気がする。解決の糸口はまだ見つからない。

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