いいわけ、聞きましょう

うた

第1話 いいわけ、聞きましょう

「ちょっと、誰よ。私のケーキ食べたの!!」


 ある日の夜。お風呂上りに食べようと楽しみにしていたケーキ。冷蔵庫を開けて固まった。さっきまであったのに、ない。ケーキが皿ごとなくなっていたのだ。

「お父さんはまだ仕事から帰ってないし、お母さん食べた?」

「そんな事、するわけないでしょ」

 ですよね。しっかり釘を刺してお風呂に入ったもん。

「弟。あんたは?」

「食べ物の恨みは怖いって、知ってるからやらない」

 確かに。前に私のポテチを食べた弟は、怒れる私に四の地固めを決められ、涙目になっていた。

「じゃあ残るは――」


 ちら。


 ふいっ。


「おい。今、目、逸らしたよね」

「……」

 目を合わせようとするが、絶対に合わせない。我が家の犬。



 お前か。



「あっ、口にクリーム付いてる!!」

 茶色の毛に、白いクリームが付着していた。間違いない。犯人はこいつか!

「何? 冷蔵庫を開けて、ケーキの皿を取って食べたの? そんな器用な事が出来んの!? ケンゾー」

 ケンゾーと言う、我が家の犬はゴールデンレトリーバー。大型だが、そんな芸当が出来るのだろうか。わりとおっとりした性格の彼。大胆な所を隠していたのか。

 お尻の所を見ると、尻尾で皿を隠していた。


「ケンゾーさん。いよいよ犯人確定ですよ?」

「わ、わふ……」

「なに? いいわけすんの? 聞こうじゃないの」

 ケンゾーの前にどっかり座り、腕を組んだ。

「あんた、犬の言葉、分かるの?」

 母は呆れた表情をしている。

「冷蔵庫、一人で開けたの?」

「わう」

「ケーキが美味しそうだったの?」

「わう」

「お皿に口が届いたから、取っちゃったのね?」

「わう」

「ダメでしょ。あんたわんこなんだから、甘いの食べ過ぎたら病気になるよ?」

「……」

「目、逸らさないの」

「……わふ……」

「美味しそうだったからってのは、いいわけにならないよ。ダメなモノはダメ!」



「姉ちゃん、犬と会話してる」

 母と弟は、笑って見ていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

いいわけ、聞きましょう うた @aozora-sakura

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ