そして明ける空に
三夏ふみ
そして明ける空に
「本当にこっちで合ってたんだろうな?」
「えっと。ほんとに、ごめんなさい」
銀髪の横顔、ショートボブから覗く先の尖った耳が小刻みに揺れる。上がる視線に釣られて見上げた空は小さい。
酒場で助けたのは、ほんの気まぐれだった。退屈しのぎと言ってもいい。その時の俺はちょうど仲間と喧嘩別れしたばかりで、ただ憂さ晴らしをしたかっただけなのかもしれない。
頭の上の丸い空に鳥が飛ぶ。ふと、忘れていた記憶を頭の片隅に見つける。
空を駆ける。
その願いだけを胸に灯して飛び出した世界、宛もなく旅してここまで来た。だけど届くはず、そのはずだった。だが、憧れた空は今もまだ遠い。
「良い天気ですね」
間延びした声が現実へと引き戻す。土壁に背を預けマジックロッドを抱きかかえる横顔、再び見上げると、鳥はまだ旋回している。
「質問していいか?」
返事はない。ただ、黙って見つめるふたつの青、その瞳に曇りはない。
「いや……なんでもない。忘れてくれ」
沈黙に満たされていく、暗い穴底。
きっとこいつなら答えてくれる。俺が知りたい全ての答えを。でもそれは。
不意になる腹の音。気まずそうに下を向く顔がほんのり赤い。
「腹へったなあ」
「お腹、減りましたね」
同時に言い、同時に笑う。
「おおい。誰か居ないのかぁぁぁ」
大声で叫ぶ。
「おぉい、ここだ。おぉぉい」
「だれか居ませんか。誰かぁ」
ふたりで叫ぶ。世界の隅々まで届く声で。ありのままに、力の限り。
「「おおぉぉぉい!!」」
重なる声、交わる視線、ハモる笑み。
「ぉぉぉぃ」
頭上の穴から返事が返ってくる。顔を見合わせると、立ち上り大きく手を振り叫ぶ。俺達はここだ、と。
縄梯子で穴から這い出ると、仲間の手が俺を掴む。先に出ていたあいつがローブの土埃を手で払っている。
「悪かったな」
「いえ、こちらこそ」
差し出した手を握り返す、細く小さな手。
笑った青い瞳が、虹色に輝いて見える。
俺もまた成れるだろうか、いいわけしないこいつのように。
そして明ける空に 三夏ふみ @BUNZI
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