グリムワール帝国史
真
第1話 出会い
アランストラ大陸の西方グリムワール帝国。
豊かな自然に囲まれるこの帝国は歴史的にはまだ浅い。
これから記されるのは、南方の雄シヴァリンガ同盟や不倶戴天の敵であるアランストラ王国と接するグリムワール帝国の物語の序章である。
もともと1つの大きな王国アランストラであったこの大陸では、古来より部族ごとの紛争が絶えず、王国を見限って小国が乱立したのが今から150年前。
幾つかの小国が併合・吸収されて出来た寄せ集め国家グリムワール帝国が成り、
今に至っている。
現代。
1人の若者がグリムワール帝国大学に降り立ち、物語が始まる。
ルーエ=ヴァイスはひとしきり困った顔をしながら目前の青年を見た。
帝国では珍しい黒髪と黒瞳。
冒険者のようでいて流浪の民イシスにも見える出で立ち。
みすぼらしい、と言い切ってしまっても良いような格好の青年の要望に
酷く困惑してしまっている。
帝国大学で教鞭をとるルーエは若くして4大魔術を操り、帝国きっての才女として他家からも一目置かれているが、
が、青年の要望に困惑してしまっているのである。
「…つまり、この世は4大魔術ではなく、
6大魔術があり、あなたが私の知らない
大魔術を提供するから、この帝国大学に
入学したいってことね?」
「…はい」
「…で、どうして私なのかしら?」
ルーエは表情を渋らせながら、青年に尋ねる。
「…あなたが4大魔術の大魔導師だからです。」
「いや、私でなくても他の方も居るでしょう?それに、」
ルーエは先ほどの出来事を思い出しながら尋ねる。
「さっきのアレはなに?私の魔力感知にも引っかからずに警備員2人を瞬時に眠らせるなんて。」
ルーエは半ば呆れながら、自分の知らない魔術を
目前の青年に使われたことに驚愕していた。
「あれは…眠りの雲を発生させるスキルです。」
スキル?雲?
ルーエは不可思議な物言いをする青年をじっと見つめた。
他人を強制的に眠らせるスキルなんて聞いたことないし、
ましてや雲なんて見ていない。
私の魔力探知にも引っかからなかったところを見ると、魔力を用いないスキルに違いないのだが、それが何なのか検討もつかなかった。
「そもそも入学希望なら、大学の一般受付でしてるでしょう?」
グリムワール帝国大学は、貴族だけでなく市井の人々にも門戸を開放している。
国を発展させるために能力のある人材を広く登用し、他国の脅威から国を守るためだ。
「…僕には身元を保証してくれる方がおられなくて…」
青年は申し訳なさそうに返答する。
確かにこの身なりであれば、門で警備員から追い払われるのも納得する。
流浪の民イシスは居住地を持たない民だから、大学に入るのは難しい。
ルーエが門に駆け付けたとき、押し問答になっていたのを思い出した。
「で、さらに尋ねたいんだけど、どうして私の名前を知っているのかしら?
私はあなたを全く知らないんだけれども。」
「…僕のスキルで解析しました。」
スキル?解析??
またもや不可思議な言葉が発せられる。
スキルで他人を解析するなど、長く大学で学んだこの私でも聞いたことがない。
スキルで解析出来るのは、生命を持たない物だけ。
生命を持つ、ましてや人間の解析など出来るものではないのだ。
ルーエは困惑の表情を崩さずに続ける。
「あなたが私の名前を呼んで、さらに警備員を眠らせたせいで、
私の客人扱いになっているあなたとこうして話しているのだけれども、
大学に入学とかはさすがに私の権限が及ばないわ。
諦めて欲しいのだけれども。」
「…いえ、それは困るのです。」
「そう言われてもこっちも困るのよ。身元保証人を探して、
それから一般受付してもらわないと入学は許可されないと思うの。」
「…困ります。」
「そう言われてもね…私には何も出来ないもの。」
おいそれと不審人物を大学に入れる訳にはいかない。
目の前の不思議な青年は暴力に訴えることはしそうもなかったが、
何せ素性が分からない。
「僕の育ての親が絶対にこの大学に入学してレベルを上げるように
強く言っているのです。」
「親?親御さんがいるのだったら、親御さんに身元保証人に
なってもらえばいいんじゃない?」
「…出来ません。」
「どうして?」
ルーエはこの不毛な問答をいい加減切り上げようとする。
しかし、この青年の次の返答はルーエが想像もしなかった驚きの一言だった。
「…親は、グリムワール迷宮の奥に住んでいるんです。」
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