リリエルとお邪魔虫(3)
リリエルたちは夜の倉庫街に追い詰められている。謎の武装集団は十人以上いるだろう。目的は知れないが、全員がレーザーガンやハイパワーガンを装備していた。対する三人はそれぞれがレーザーガンしか持っていない。
「見えてる、ジュネ?」
「無理だね。隠れられちゃ」
走る輝線はひっきりなし。生かして帰す気など毛頭なさそうだ。反撃するしかない状況。
「止み間にうちが反対に飛びます。気を取られている隙に狙ってください、エル様」
ゼレイが囮を志願。
「それしかなさそうね。やられるんじゃないのよ?」
「任せてください。二、三人は道連れにしてやります」
「やられてるじゃないの!」
言っているうちにレーザーが止んだ。ゼレイが横っ飛びに反対側へ。再開した輝線が彼女の残像を追う。うつ伏せに影から出たリリエルは、乗りだして射撃する集団に連射を浴びせた。二人が倒れる。
「いい感じだ」
「行って、ジュネ!」
恐るべき速度で突進した彼は強化樹脂のケースを踏み台にジャンプ。隠れている敵を上から掃射する。怯んでいる隙に駆けだした二人は至近距離から確実に屠っていった。
「制圧完了!」
「一人残らず始末してやりました」
「ま、本当なら一人二人残しておいて吐かさないといけないんだけどさ」
スピーカーが「パーフェクト!」と称賛してきた。彼女の服装も戦闘服から元の服に戻る。手に持っていたグリップを台に戻してアトラクションルームを出た。
「休暇にまで荒事に興じなくてもさ」
ジュネが失笑する。
「他に面白そうなのなかったんだもん」
「手加減しなくていいからすっきりしました」
「でしょ?」
本物ではこうはいかない。
「それにしても
「レベル最大だったのに敵の質も悪すぎです」
「これで楽しめるくらい平和なんだよ。いいことじゃないか」
ガンアトラクションルームは数組の順番待ちが生じていた。比較的人気のあるルームらしい。他は海底探索だの宇宙探訪だの生ぬるいものがしかなくて興味が抱けなかった。
「ねー、ブランドショップとか女の子らしいとこ行きましょうよー」
「んー、悪くはないんだけど」
腕を引くゼレイを放ってジュネをうかがう。
「プレゼントしてもいいけどさ、明日あさってに受け取れるものとなったら既製品をサイズアレンジする程度。そんなもので満足かな?」
「いい。そんなんお金の無駄。しっかり時間取れるときに良いものが欲しい」
「わかった」
彼の言で却下が決定される。
「むー、居候が要らないこと言うし」
「その代わり、若者向けのジュエリーショップでも賑やかそうか。そういうとこなら陳列してあるものでいいよね?」
「それがいい! 連れてって」
連れ立って再び大通りへ。
「いい傾向」
妹分が珍しくジュネを褒める。
「居候なら感謝を形にして表さないと」
「そうだね、ゼル」
「こら、偉そうにしない!」
赤茶髪の頭に軽く拳骨を落とした。
「だってこいつ、レイクロラナンを隠れ蓑にしてるんですよ? お礼を態度と形にするのは当然です」
「勘違いしない。色んな恩恵もあるのは知ってるでしょ?」
「たまに楽できるだけじゃないですか」
彼らの活動で星間管理局の施設を利用する頻度はそれほど高くない。あまり露骨に接触するのもよろしくない。
「それだけじゃないの。ジュネが
「そうなんですか?」
「もっとも、広言したくたってハイパーネットを押さえられてるから無理だけど。星間管理局は世界の根底たる情報を一手に握ってるのよ」
加盟国市民には守秘義務がある。無視するのも可能だが、情報を拡散する手段の
不公平に思えるかもしれないが、銀河規模のシステムを管理運営できる国などどこにもない。管理局の管轄下にあるからこそ成立しているシステムなのである。
「戦略論くらいは頭に入っているでしょ?」
ゼレイもそれほど馬鹿ではないはず。
「情報を制する者が人類を制す、ですね。マクロレベルであるほどに」
「そう。だから一部の、特に権力近くの人間だけが知る公然の秘密になる。それがなにを意味するかわかる?」
「わかりません」
首をひねっている。
「ゴート宙区と星間管理局が仲悪いわけではないって証明になる。噂されているほどの確執はないと。切り札たる
「あ、そうか」
「蜜月ってほどじゃなくとも、互いに築いているものがあるって思わせられる」
少なからずある噂だ。
加盟時に賛成反対で悶着があったのは少し調べればわかる。ゴートにはくすぶる感情があってもおかしくないと感じるだろう。
対して星間管理局も扱いが難しい。全戦力が集結すれば、天下の
よって、この二つの勢力間で綱引きがされていると見るのである。
「どこの国だって、あそこに手を出せば物理的にも社会的にもダメージを負う。リスクを感じさせとくのが肝要」
妹分の瞳に理解の色をうかがう。
「そうなんですね。面倒なことにならないようにエル様は我慢してらっしゃるんですよね?」
「我慢じゃない! 貢献よ、貢献!」
「どっちでもいいですけど」
彼女が「よくない!」とツッコんでもどこ吹く風。
「エルの目標も正しいんだよ。ブラッドバウを
「ブラッドバウが星間銀河を制する日も近いですね?」
「違うわ!」
ゼレイはリリエルの目標を野心と捉えている。完全に間違いではないが正解でもない。
「正々堂々と駒を進めてくるのは関係性をほのめかすだけで防げる。でも、それはむしろ少数派じゃない。リランティラみたいにそれとなく探りを入れて、あわよくばって姿勢が普通」
搦め手である。
「暗躍するのは防げない。それなら手出しできないほど差がある強敵になればいい。戦闘力は抑止力とするのが賢い使い方よ」
「難しいこと考えてるんですね」
「あんたたちの命を預かる以上はね」
野心家だと陰口を叩かれるのも厭わない。
「上手に立ちまわらないと、政略家ってのは戦略家より怖いとこがあるからね」
「陰謀で勝負できるほど器用じゃないの。そのあたしが政治家に後れを取らないようにするには圧倒的な力を持たなければならない」
「お手伝いします!」
元気に答える。
(正直、エルシがいればそんなに心配ない。でも、彼女がいつまでいてくれるかなんてわかんないもの)
繋ぎ止めておく自信はない。
(一番は政略もこなせる人がいてくれるのがベスト。例えばジュネみたいな)
当の本人の言質は取れない。しかし、エルシと違って繋ぎ止めておく方法はある。それは彼女の想いと目的を一つとするもの。
「ここ?」
平日だけあってジュエリーショップは空いていた。
「みたいだよ。入ろうか」
「かわいいのあるかなー」
「子供なんだから」
店内を散策し、彼女は翼を模したペンダントを、ゼレイも魚をモチーフにしたペンダントをジュネに買ってもらう。その場で着けてもらって見せあった。
(こういうとき、ちゃんとあたしだけを見てくれるようだったら安心できるんだけど。それを求めるのは無理ね。ジュネだもん)
誰にでも優しい歯がゆさもある。
リリエルは異邦の休日を満喫すべく気持ちを切り替えた。
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