いいわけ
家宇治 克
第1話 空いた胸元
もらったネックレスを無くした。
いつもの場所に、いつもの位置に置いたのに。それは、どこにもなくて。
私はさぁ、と顔を青くする。
どうして、なんて、思うことも出来ないくらい焦っていて。
いつもの時間に、リサが迎えに来る。私たちの土曜日を、最高の一夜にするために、メイクもコーデも完璧に決めたいのに。
彼女にもらったネックレスが、今夜必要だというのに。
「アマネ? 準備出来た〜?」
リサが来た。ネックレス以外は完璧だ。
でも、どうしたらいい?
今日は彼女と約束していた。「もらったネックレスをつけるね」と、先週に宣言してしまっている。それを、今このタイミングで覆していいものか。
「うん、準備オッケー」
ネックレスをしないまま、私はリサの元へ行く。リサは、私を見るなり何かに気がついた。
「ネックレスは?」
やはり、言うと思った。私は、無くした、なんて言えなくて、「気分じゃない」と濁してしまう。リサは、淡白な返事で車のロックを外した。
いつものドライブで、いつもと違う夜景を見に行く。
せっかく全部完璧なのに、首元だけが完璧じゃない。未完全で、空白の胸元が見える度、泣きそうになる。
「……ネックレス、まじでどうしたの?」
リサの追及が、すごくすごく痛い。
私は無くしたなんて言えないから、それっぽい理由を探した。
「ネックレスがさ、オシャレすぎて、合う服が無かったんだよね。あれこれ試したけど、ネックレスが映えるコーデにならなかった」
ごめん、と私は言う。
無くしたことと、約束を守れなかったことへ。
リサは「あっそう」と、興味を無くした返事をした。
「別にいいけどね。アマネに似合うと思って買ったやつだし、アマネが好きに使えばいい。あげたものに口出しはしたくないからさ」
リサの言葉に、私は申し訳なさが勝る。
「ごめんね」
私は正直に、無くしたことを話した。リサはそれをじっくり聞いて、笑いだした。
「それで、あんな言い訳を?」
「うう、本当にごめん。家帰ったらちゃんと探すから」
「分かった分かった。ちゃんと謝れたご褒美をあげよう」
そう言って、リサが私の手に置いたのは、無くしたはずのネックレスだった。
いいわけ 家宇治 克 @mamiya-Katsumi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます