ピンクダイヤの指輪と白百合のドレス

幽八花あかね

💍


「もしもし――お兄ちゃん? うん。わたし。……もうっ、本物だってば。あなたの妹の、詩音里しおりです。……うん。めっちゃ久しぶりだよね。

 ごめん、ぜんぜん連絡しなくて。LINEラインもブロックしちゃって、ごめんね。ちょっとあのときウザかったから。……ふふっ、そりゃあ、言うよ。ウザかったって言葉じゃ足りないくらい、お兄ちゃんはアホみたいにしつこかったです。うん。ちょっとじゃないなって? 自覚あったんだ?

 あはははっ…………や、別れてないよ。ていうか、別れる気なんてないよ。うん。ぜったいに別れない。あのね、きょう、電話したのは、カノジョのことで。うん。……海外に飛びはしないけど、まあ、そんな感じ。

 わたしたち、結婚しようと思うの。私、カノジョと結婚するの。……無理だろって? それは、まあ、パートナーシップ制度っていうのでくっついて、身内と友だちをちょっとだけ集めて、お式をするってだけ……だよ。うん。……うん。

 ねえ、お兄ちゃん。わたしね、お兄ちゃんに、ちゃんと言わないといけないことがあったんだ。わたしとあの子が同棲するってとき……そう、あのときのこと。……ああ、謝りはしないよ? 悪いことをしたとは、今も思ってない。

 あのね、わたし――あのときね、決して嘘をついたわけではないんだけれど、真っ直ぐに言えなかったことがあって。……そう、言い訳、かな。言い訳だったのかもしんない。

 お兄ちゃんも知ってのとおり、わたしは小学校のときに、男子ってものを嫌いになってしまって。お兄ちゃんやお父さん以外の異性と関わるのが、まったく嫌になってしまって。それで逃げるように女子校を受験したよね。……そうだよ、逃げるみたいだった自覚はあるよ。うん。

 ……わたしは、カノジョと一緒に暮らすってときに、それを言い訳にした。わたしは男のひととは幸せになれないって。無理だって。諦めてって。……でもね、わたしね、男のひともいる職場で仕事するようになってから、思ったんだ。

 わたしは、もう、家族以外の男のひとと話すことだって嫌じゃないし、たぶん、どうしても男のひとと結婚しろってお見合いでもさせられたら、たぶん、それでもどうにかやっていけちゃうんだろうなって。なんか、もう大丈夫になっちゃったんだな、って思ったの。

 ……わたしは、お兄ちゃんが前に言ってたみたいに、誰か他のひとと一緒になっても、それなりに幸せになれるとは思うよ。それくらいには、ちゃんと、自分の心がある大人になったよ。

 ……でも、でもね。わたしが今、世界でいちばん愛してるのは、なるで。わたしは、成実と一緒なのが幸せで。大好きで。彼女と歩みたいって気持ちは、ずっとわたしの中にあり続けるんだと思う。……惚気に聞こえる、か。……うん。世界でいちばん、あの子が好きよ。

 準備はどうなんだ、って? ああ、こないだブライダルフェアに行った。……プロポーズ? もうしたよ。……ん。ピンクダイヤのやつ。ごめん、お兄ちゃんのところのではないや。……べつに反抗期ってわけでもないけど? 成実に似合いそうな指輪にしたってだけよ。

 ……ドレス。……ドレスは、そっちで、って? ……白百合をイメージした新作って、何それ、面白いと思って言ってる? それとも真面目に? ……えっ、画像送るって? ちょ、ちょっと待ってよ、まだ切らないで。大事なことを言えてないんだから。……まだあるのかよって、そんなに嫌そうな声しないでよ。かわいい妹からの電話だよ? ……いい歳して痛いとか、それもヤメテ。もうっ。……だからっ、わたしが、言わなきゃいけなかったことは。それは、ね。

 ――わたしたちの結婚式に、お兄ちゃんは、来てくれますか……?」

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ピンクダイヤの指輪と白百合のドレス 幽八花あかね @yuyake-akane

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