クラスのアイドルと一緒に邪神の使いとして悪役ロールプレイを試みる
不知火 慎
第一章
1.目覚めの腹パン、そして悪の神様
「……て……きて……」
形容しがたい心地よさのまどろみの中、
その声の主はどうやら自分を揺さぶっていて、どうしても起きてほしいようだった。しかし朝の二度寝とは比べ物にならないほどの心地よさを堪能している今、目を開けたくないという気持ちが勝っていた。
「……きて……起きて……青天目くん……」
「う……いや……まだ──」
「さっさと起きろって言ってんでしょうが!?」
そんな絶叫の後、みぞおちに衝撃が走った。内臓がすり潰され思い切り吐血してしまいそうなくらいの衝撃。政臣は文字通り飛び起きた。
「ぐおッ!?」
起き上がると、一瞬で自分が異常事態に置かれている事に気が付いた。どこだか分からない、地面に雪が敷き詰められている洞窟にいる。なのに全く寒くない。すきま風の音が絶えずしているのに全く凍えない。そして目の前には杯を掲げた謎の男の石像、横には──おそらく自分のみぞおちにストレートを食らわせたと思われるクラスのアイドル、
「あっ、ようやく起きた~。ごめんね~。あまりにも起きないものだからちょっと強引な手を使わせて貰ったわ」
「すました笑顔で言うね。まだジンジン痛みがするんだけど」
「どうでもいいわ」
政臣は姫愛奈の頬を思い切りひっぱたきたい衝動に駆られた。本当にそうするべく右手を挙げようととしたとき、二人の目の前の石像から声がした。
『ん?おお、起きたか!かなり強引にやったが、二人ともなんとか生きてるようだな』
「うわあッ!!」
「キャアアア!!」
二人は思わずお互いに抱き合って縮こまった。
『待て待て安心しろ。殺すつもりは無い。お前たちは私の力でこの場所にいるのだ』
二人よりは年上だろうが、あまり威厳を感じない若々しく高い青年の声だった。二人はキョトンとして石像を見つめた。
『よし。まずはお前たち、自分の名前とか、そういう基本的な情報が記憶に残っているか確かめろ』
「えっ?え~と、俺の名前は青天目政臣で……」
「私は白神姫愛奈で、名前負けしないくらいの超絶美人……」
「真面目なトーンで言うな」
『名前はちゃんと覚えているようだな。なら、思い出せる直近の記憶は?』
「……」
ややあって、二人の表情に陰りが差す。
「あれ……?確か俺らって……」
「死んでる……?」
二人の脳裏には、まるで数分前の事のようにその時のパニックが浮かんでいた。政臣たち私立
「えっ!?じゃあここって死後の世界ってやつ!?」
『いや、違う違う。さっきも言ったがお前たちは私の介入の結果ここにいる。といっても死んだも同然の状態だがな。お前たちがいた世界では』
「それはどういう……?」
「お前たちとその仲間たちは、あの事故で死ぬ直前に別世界の者たちによって世界間を移動したのだ。ちょっと調べてみたが、お前たちの世界にはそういう筋書きの物語が数多あるんじゃないのか?」
そう言われて政臣はすぐに状況を理解する。
「──つまり俺たちはあの飛行機事故で死ぬその寸前に、異世界に召喚されたってことか!ラノベ読んどいて良かった~」
「……あんまり詳しくはないけど、なんかそういうアニメをチラッと見たことがあるわね。今まさにそんな状態ってこと?」
『こっちとお前たちとの言葉に幾つか
「じゃあ、ひょっとしてあなたが俺らを異世界に召喚した神様的な存在ですか!?」
政臣は声を弾ませて石像に訊ねた。
『いや、違う。神なのは確かだが、私は転移に介入して、お前たち二人の転移先をこの祭壇に変更しただけだ』
「──は?」
「──え?」
二人は
『そのマヌケな表情、非常に愉快!自己紹介が遅れたな。我が名は〈アマゼレブ〉。貴様ら薄弱な
「邪神!?」
「悪い神様ってこと!?」
『概念的に言えばそういうとだ!まあ、私はまだマトモな方だから安心しろ。お前たちをここに連れてきたのは、私の暇つぶしの為だ』
「暇つぶし?何言ってるの?」
『何かの比喩でも暗喩でもないぞ。本当にただの暇つぶしの為だ。私はな、他の神がそうであるように永遠の存在なのだ。年齢の概念も無いし、仮に他の神に
二人は黙ってうなずいた。
『自分の領域で眷属と遊んだり、他の神の領域にカチコミをいれたり、面白そうな事を思いつく度実践しても、それが終わるとまた暇な時間がやってくる……正直言って疲れる。特に私は悪側だからな。いわゆる善側の奴らと違ってお前たち定命の者の世界に恩恵を与えるといった役目が無いからな。世界を滅ぼすことはあるが』
『まあいろいろと言ったが、つまり私はお前たちの言葉で言うところの『暇人』なのだ。いや、人ではなく神なのだが……。いや、そんなことはどうでもいい。要するに、お前たちに私の暇つぶしの手伝いをしてほしいのだ。引き換えに……そうだな、お前たちを我々と同じく永遠の概念に組み込み、不老不死にしてやろう』
「不老不死!?」
「そんなことが出来るの!?」
『造作も無い。ただ、そんなことをする必要性がないだけだ。ただし、私の暇つぶしの手伝いを完遂出来ればの話だ』
「暇つぶしの、手伝い……」
「神様の暇つぶしって、何をすればいいの?」
二人は頭の中でそれぞれ様々な憶測を立てていた。そしてこの時点で二人は既に自分たちが夢か幻を見ているのかもしれないという疑いを捨てていた。この状況は紛れもない現実であると、そう認識する。そうなると問題はこの軽そうな神が何を求めているのかということだ。
『おっ、私がどんな暇つぶしを思い付いたのか知りたいって顔をしているな~』
愉快そうにアマゼレブは言った。
『安心しろ。お互いに殺し合え、なんて命令はしない。それはもうやり尽くして飽きた。私が思い付いたのはな、お前たちを私の眷属にして転移先の世界にいるお前たちの仲間と戦わせるというものだ』
「……それって結局顔見知りと殺し合えって言ってるのでは?」
『殺せとは言っていない。私は敵として現れたお前たちを、クラスメイト《仲間》たちがどうするのか見てみたいと思ったのだ。お前たちがあの世界に召喚された理由は分かるか?』
「う~ん、ラノベ準拠で言えば勇者とかになってもらう為に召喚されたのかな?」
『そうだ。お前たちを召喚した世界の人間共は、他の世界の例に漏れず亜人共と何年も争っている。お前たちの世界では珍しく人間が生存競争を勝ち抜いて亜人共や魔物共を絶滅させてしまったようだが、他の世界では人間以外に亜人や魔物が存在しているのだ。うまい具合に共存出来ている世界もあればお前たちを召喚した世界のようにいつ終わるかも分からない争いに狂奔している世界もある。そして別の世界の住人を召喚するというのも割と一般的なものでな。だからお前たちが召喚されたのは格別すごい事では無いのだ。まあ、確率的に言えばめずらしい事かもしれないが……』
「じゃああなたみたいな神様がその『召喚』を妨害するのはよくある事なの?」
『いいや。だが、無いことは無い。まれに召喚者の悪意を感じ取ったいわゆる〈善〉の奴らが妨害をすることがあるが、私のように暇つぶしの為に召喚を妨害したことは無いはずだ』
「なるほど……あなたが『悪側』の神ってことがよく分かったわ」
「なら、ますます気になるのがなんで俺たちを選んだのかって事だな……」
『ん?お前たちも立派に『悪側』の素質があるからだ。少なくともあの集団の中では』
「は?それはどういう……?」
『言葉の通りだ。専門的に言えば、お前たちの〈カルマ〉が特別低い、ということだ』
二人はアマゼレブの発言に困惑するしかなかった。
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