小さな世界

中村ハル

第1話 通信

「今、どこにいますか?」

 ノイズ混じりの通信機から聞こえてきたのは、先輩の声だった。

「先輩! 今、十六フロアの南側、違法増築地区の左奥、部品屋の倉庫です」

「良かった。上にいたのか」

「逃げ遅れて、下層階に向かった一団とは合流できなくて」

「それでいい。下層階は……全滅だ」

 悲痛に歪んだ先輩の声が、ノイズに呑み込まれる。僕は通信機を耳に押しつけ、必死で声を探った。砂嵐のような雑音が不意に途切れて、また先輩の声が囁く。

「もうじき、救援隊が着くそうだ。彼らの装備でも、長時間は滞在できない。迎えに行くからそこを動くな」

「だったら、合流地点を決めて……」

「駄目だ。建物内は汚染が進んでいる。どこが安全かそうでないかは、お前の今の装備では判らないだろ」

「でも」

「俺なら大丈夫だ。装備は完璧だし、お前を収納する機材も整っている。すぐに行くから、絶対に動くなよ」

「解りました」

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