オッサンが授かったジョブは若者には死語でした

しょうわな人

第1話 えっと…… 何コレ?

 俺の名前は…… まあここではオッサンとしておこうか。実際にオッサンだしな。


 昭和四十八年三月生まれだから既に半世紀を生きてるオッサンだ。もしも結婚してたら孫が居るかも知れないほどのオッサンだ。

 だから俺はオッサンなのだ。


 で、俺は今、訳が分からない現象に巻き込まれているようだ。


 俺の目の前には十代後半〜二十代前半の若者が五人ほど居る。更にその前にはドレスアップした女性とその女性を守るように甲冑を身に着けた男たちがいた。顔部分の甲冑は外しているので男だと分かった。みんな腰に剣を装備している。本物か?


 そんな中、女性が喋りだした。


「皆様、ようこそウ・ルセーヤ国にお越し下さいました。私はウ・ルセーヤ国の第一王女でラームと申します。この度、皆様を我が国へとご招待させていただきました。どうかよろしくお願い致します」


 そう言って頭を下げる女性、もとい、第一王女様と名乗る役者さん。役者さんだよな?

 だが、俺の前にいる若者たちは


「キターッ! 異世界転生!」

「フフフ、遂に私の封印が解かれる時が……」

「オイオイ、俺が勇者だって?」


 などと言って騒いでいる。一人だけ、中でも一際目立つ美人さんは何も言わずに冷静に今起こっている事を判断するような表情をしているが……

 あの美人さんの顔はどこかで見た事があるんたよなぁ? 思い出せないけど。年を取るとままある事だからしょうがないと思い出そうとするのを止めた。


「皆様、どうやら冷静に受け入れて下さっているようで有難うございます。ここで皆様にお約束します。皆様のお力で我が国の危機が落ち着きましたなら、必ず皆様を元の世界にお戻しします。ですのでどうか私たちに力をお貸し下さいませ!!」


 うーん? 我が国の危機って言われてもなぁ…… いきなりこんな所に呼び出してそんな事を話始めても視聴者は何のこっちゃと思いそうだぞ。この脚本を書いた人はちょっと書き直した方がいいんじゃないかな。

 オッサンの俺はまだそう思っていたが、王女様とやらが甲冑を着た人たちに指示を出して、大きなガラス玉を持ってこさせた。


「さて、話が早い皆様ならばコレが何か分かる事と思います。そうです、この水晶で皆様のジョブやスキル、ステータスを確認させていただきたいのです。勿論、ご自分で確認する事も可能ではありますが、どうか哀れな私たちにその素晴らしい能力を見させて下さいませ!」


「キターッ! ステータス確認!」

「フフフ、私より優れた者など居ない……」

「勇者装備は揃っているか? 早く用意しておけよ」


 うんうん、君たちはいい役者だよ。


「それでは皆様、お一人ずつこちらの水晶に手を置いていただけますか? 先ずは貴方から」


 王女様役からご指名されたのは一番キターッって言ってた若者だった。


「ウッスッ、ご指名有難うございます! 自分、早野海里はやのかいり、十八才っす!」


 名乗りを上げて王女様の近くに行き、水晶に手を置く早野くん。すると、壁にプロジェクターで映しだしたような文字が現れた。


名前:カイリ・ハヤノ

性別:男

年齢:十八才

職業ジョブ剣帝けんてい

技能スキル:剣技・剣術・剣闘・見切・帝王術

位階レベル:1

体力:250

魔力:80

武器:無し(+0)

防具:無し(+0)

攻撃:100(+0)

防御:90(+0)


「まあっ!? 剣帝のジョブがっ!! 何十年ぶりなの、ダイアン?」


「ハッ、ラーム姫様! 記憶が確かならば六十八年ぶりにございます!!」


 主従関係役なんだろうけど、うーん上手く役に入ってるね。答えた甲冑を着た人も顔が崩れないなんて、大した役者さんだ。


「カイリ様、素晴らしいですわ! 是非ともお力をお貸し下さいませ!」


「うっす! 自分で良ければ力になるっす!」


 そして、次も若い男の子だ。オッサンからしたら男の子ってだけで、世間では青年というべき年齢だろうと思う。


神妙持将じんみょうじしょうだ。年は二十才になる」


 そう名乗って水晶という名のガラス玉に手を置く。うん、名乗りを上げる必要があるのか……

 ついさっきオッサンで通そうと思ったのだが、ええいままよ! オッサンで通すぞ!



名前:ショウ・ジンミョウジ

性別:男

年齢:二十才

職業ジョブ魔極まきょく

技能スキル:全魔法・杖術・極解

位階レベル:1

体力:120

魔力:800

武器:無し(+0)

防具:無し(+0)

攻撃:80(+0)

防御:120(+0)



「まあ! まあまあ!! まっ、魔極まきょくですってっ!? 何て素晴らしいのかしら!! ショウ様、我が国で百六十年ぶりとなります、ジョブですわ! ショウ様もお力をお貸し願えますか?」


「フッ! 女性の頼みは断らないのが俺の信条だ! 良いだろう、力を貸そう」


 うん、気障きざな台詞が良く似合う男前だ。うらやましくなんか無いぞ。ホントだぞ。


韓奈津希かんなつきよ。年は十八」


 さっきフフフって笑ってた女の子だな。ギャルっぽい見た目だけど、オタクっていう設定なのかな?



名前:ナツキ・カン

性別:女

年齢:十八才

職業ジョブ:拳闘王

技能スキル:破壊・秘孔・発勁・棒術

位階レベル:1

体力:220

魔力:100

武器:無し(+0)

防具:無し(+0)

攻撃:150(+0)

防御:130(+0)



「んまあっ!? 拳闘王なんて! 今回、お呼びした方々は何て素晴らしいのでしょう!? ねえ、ダイアン!」


「ハッ、ラーム姫様。私もお三人のジョブを見て驚いております!!」


 何やらはしゃぎだす役者さんたち。凄いなぁ、あんなに演技できるなんてうらやましいな。

 ん? ちょっと待てよ…… よくよく考えてみたらどうやって俺はこの場所に来たんだ?

 記憶に無いな…… 確か、昼休みに会社近くの蕎麦屋に入って、そこで飯を食って、それから会社に帰る途中に、今目の前に居る若者たちが俺の三メートルほど前を歩いていたんだよな? 

 この美人さんは二メートル前だったか?

 四人は連れ同士みたいだったから間違いないよな。で、歩いてた筈なのに気がついたらココに居たよな…… どういう事だ? ひょっとして俺はよわい五十にして遂に健忘症が始まったのか…… そりゃ、昨日の晩飯を覚えて無かったり、家の鍵を閉めたのに、閉め忘れたと思ったりは四十五ぐらいからあったけど……


 そんな事を考えていたら、四人組の最後の一人がガラス玉に手を置いていた。


 その時、美人さんがスルスルと俺に近づいた。小声で俺に話しかけてくる。


「あの、キータ商会の方ですよね?」


 うん? 何で俺の職場を知ってるんだ? 俺はこんな美人さんを見た事がないぞ。それでも俺は素直に返事をした。


「はい、そうですよ。キータ商会で働いてます。社内でお会いしましたか?」


「はい。あっ、いえ。私が見た事があるだけなんですけど…… 私、葛城美琴かつらぎみことと言います」


 おう! 我が商会がいま一番お世話になってる葛城さんか! こんな美人さんだったとは。

 うちの会社は商会なんて言ってるが、要は個人の職人さんから物を仕入れて売ってるピンハネ屋だ。あ、勘違いしないで欲しい。ピンハネそれは俺が言ってるのじゃなく、うちの商会の代表取締役が自分でそう言ってるんだ。


「いつもお世話になっております。キータ商会の総務部に勤めております、オッサンです」


 俺はオッサンで通すと決めたからちゃんとオッサンだと名乗ったぞ。だってこの人が本当に葛城さんかどうか俺には分からないからな。

 

「オッサンさんですか? 変わったお名前ですね。あの、この状況ってどうなってるんでしょうか? 私、キータ商会に向かってた途中だったんですけど? 何かご存知ありませんか?」


 なるほど、この人はそういう設定なんだな。俺はそう思いながら、俺にも分からないので


「いや、実は俺も分からないんです。昼食を食べて会社に戻る途中までは記憶してるのですが」


 と答えていた。そんな会話をしていたら、王女役が葛城さんを呼ぶ。


「さあ、後はあなた達お二人ですわ。女性の方からお願い致します」


 そう言われて葛城さんは俺をチラッと見た後にガラス玉に近づいていった。

 今は、その前にガラス玉を触った女の子のステータス? が壁に映し出されている。



名前:サクラ・ジンミョウジ

性別:女

年齢:十八才

職業ジョブ:神聖乙女

技能スキル:癒し・浄化・回復・治癒・神聖術

位階レベル:1

体力:90

魔力:500

武器:無し(+0)

防具:無し(+0)

攻撃:80(+0)

防御:100(+0)



 うーん、まるでファンタジーだなぁ。オッサン、ファンタジーはあまり得意じゃないから良く分からないが。

 そうして、葛城さんを名乗る人がガラス玉に手を置いた。


 けど本当に何だろうな、この状況は? オッサンはまだ戸惑ってるよ……








 






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