14話 本殿へ向かう
早船鶴真は、大型の懐中電灯を二本携えて神社の石段を上ってきた。
右手に持っている懐中電灯だけが点いていて、彼のなめらかな足取りに合わせてすい、すいっとランダムに藪のあちこちを照らす。その懐中電灯を、息ひとつ乱さずに拝殿の前まで持ってきて能見正二郎に手渡しながら、鶴真は、
「皆さんがこちらに向かわれるのが、旅館の中から見えたものですから」
と話した。
「足元を照らす物があった方が良いと思ったんです。この辺りは、日暮れ時に差しかかるとあっという間に真っ暗になりますからね」
「ああ、こりゃどうも。気が回らんで……」
「どうして来たの?」
突然、梓葉の声が割って入った。
鶴真が現れたのがまったくの予想外であったかのような──あるいは、そんな真似はしないと固く約束していたのを裏切られたかのような、きつい非難のまじった口調に、利玖は驚く。
しかし、鶴真は意に介する風もなく、真正面から梓葉を見すえた。
「冬至という節目に、ほんの少しだけ仕事を抜け出してオカバ様にご挨拶を申し上げても、
「ちょっと、鶴真……」
梓葉はなおも言いつのろうとしたが、鶴真が氷のような表情になって片手を上げてそれを遮ると、すっと息を吸って口をつぐんだ。
鶴真は手元に残していたもう一本の懐中電灯を点ける。
その光で地面を照らしながら、集まっている面々の顔を見回して微笑んだ。
「よろしければ、本殿を見に行ってみませんか? ちょうど梢が切れて温泉街を一望出来ます。この時間帯なら、夕暮れに夜景がまじって、カメラで撮っても良い
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