5話 V.I.P.
事故のあった国道を迂回して、県道から
玄関脇に
その下に並んだ歓迎看板の一番右に、『潟杜大学温泉同好会御一行様』の文字があった。
〈湯元もちづき〉は敷地内に三つの旧館を持ち、それぞれが通路で繋がっている。旧館は、平屋造りの物が一つと、二階建ての物が二つだ。それとは別に、本館と呼ばれる五階建ての建物があって、フロントや娯楽施設、売店の他、最上階には大浴場を備えている。
この本館の二階から四階の間にも客室がある。
純日本家屋風の意匠を余す所なく施した旧館よりも部屋は小さいが、安い値段で泊まる事が出来た。
温泉同好会には本館の客室が一人一部屋ずつ割り当てられた。いずれも、等級は上から二番目の部屋にあたる。
最も等級の高いスイート・ルームを取らなかった理由は二つあって、一つ目は、本来かかる宿泊料金を聞いた利玖達が真っ青になって全力で遠慮をした事によるもの。比較的安価、と言えるのは、あくまで「旧館と比較して」という前置きを用いた場合のみだった。
二つ目は、男女比の都合上、どうしても利玖だけ部屋を分ける必要があるが、だだっ広いスイート・ルームに一人で放り込まれてもかえって落ち着かないだろうし、かといって等級を下げた部屋を使ってもらうにしても、男子二人がスイート・ルームでは部員間で格差が出てよろしくない、というのが梓葉と鶴真の考えだった。
温泉同好会側としては、無料で極上の寝食を提供してもらえるというだけで恐れ多くて、そんな細かい所は、もう、いくらでも良きに計らってください、と言いたいくらいの気持ちだったのだが、せっかく気を遣ってもらったので、ありがたく三人揃ってセミ・スイート・ルームを使わせてもらう事にした。
本館と、三つの旧館は、玄関から見ると、広さと奥行きを感じさせるように計算された配置で並んでいる。
老舗温泉街の一等地にふさわしい堂々たる佇まいも、その工夫のおかげで、圧迫されるような印象にはならない。
体を休め、冬をしのぎ、春を迎えるまでの力をつける為の場所だと、誰に教えられなくてもわかるような、親しみやすい懐かしさのある宿だった。
ちょうど冬休みの始めに差し掛かった時期で、ロビーにはちらほらと一般の客の姿もある。彼らに
廣岡充が話題沸騰の現役大学生作家だと知ると、さすがに皆、へえっという風に目を丸くしたが、さすがに接客のプロらしく、以降は物珍しさをあからさまに態度に出す事はなかった。もっとも、表情の不変ぶりで群を抜いていたのは当の廣岡充である。
「……はい、ありがとうございます。それでは、こちらがお部屋の鍵になります」
必要事項を記入した宿泊者名簿と引き替えに、三人はそれぞれのルームキーを受け取った。飴色のアクリル製で、側面には『湯元もちづき』の文字が彫り込まれている。ずっしりと手に感じる重みが、非日常の始まりを告げているようで、利玖はひそかに心を
「お荷物をお預かりしてもよろしいですか?」
ルームキーを渡した従業員が、続けて訊ねる。
預けるのはいいが、その後はどうするのかと思っていたら、自分達が着く前に部屋に運び入れておいてくれるのだという。
三人は思わず、しげしげと顔を見合わせた。
これでは、まるで
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