13話 コスプレイヤーと賞金首
二人は、煉瓦倉庫を離れ、曲がりくねった小道を抜けて生命医学研究センターにやって来た。
主に医学部関係者が利用する施設で、その名の通り、生命医学分野に特化した多様な研究拠点が集まっている。見た目も堂々たる九階建てで、キャンパス内では一番高い建物だ。
研究区画に入るには専用のICカードでセキュリティを解除する必要があるが、
「いませんね……」
斜陽の射し始めたキャンパスを見下ろして利玖が呟く。
こうして、風が流れて来ない場所で近くに立っていると、確かにあの鮮烈な香油の匂いを感じ取る事が出来る。
「
「まだ一か月経っていませんから」利玖は頷き、眉根を寄せた。「でも、魔除けとして機能していない、と思うのですが……」
「それはたぶん、大丈夫。妖とか怪異とか、あとは
「あ、なるほど……」
史岐の言葉に、利玖は、ほっと眉を開いた。
夕暮れ時のキャンパスには、端から薄衣を引くように影が忍び寄っている。服装を手がかりに人捜しをするには不向きな時間帯になりつつあった。
「もうどれが何色だか、よくわからないね」
「では下りましょう」
利玖が即断して、二人でエレベータに乗り込んだ。
一階のボタンを押して、扉が閉まると、利玖は横目で史岐を見た。
「
「それは、やめておいた方がいいな……」
史岐は、一刻みで減っていくライト・オレンジの電光表示を見上げながら答えた。
「ほんのわずかな力しかなくても、長年にわたって人々の信仰を集めた混じりっ気なしの本物の神だ。そういう存在と縁を結ぶ事が、必ずしも良い結果を生むとは限らない。
物を、世界を、つぶさに見過ぎるっていうのは、体を
外に出ると、
この時期、日が
西の空では、
強烈な逆光によって
生命医学研究センターを出た二人は、再び剣道部の屋台に足を運んだ。彼らの屋台は人の出入りがさかんな西門の目の前にあったので、もしかしたら、それらしい人物を見た部員がいるのではないかと踏んだのだ。
二つ折りにした段ボールに「完売」と書いた物を堂々と軒先に置き、屋台の中では部員達が酒を飲み交わしている。昼間はいなかったマネージャーの
簡単に事情を説明したが、全員が「巫女……?」と心当たりのない反応を示した。
「コスプレかなあ」遥が呟く。
「コスプレで巫女の格好をする人なんているの?」と汐子。
「そらもう、需要ばっちりやて」
「ふうん……」
コスプレの需要には関心のないらしい汐子は、
「どうしてそんな人を探しているの?」
と利玖に訊ねた。
「さるお方から落とし物探しを頼まれたのですが、その時、近くにいたという巫女姿の人物が行方を知っているかもしれないのです」
「物騒な
最後に遥がそう言って、ページを利玖に返す。
「
へええ、と屋台の面々が声を揃えて感心している所に、広場の方から学生が一人、歩いて来た。
男子生徒だが、色白で、どことなく
「えっと、夏合宿にいた……?」
「佐倉川利玖ちゃんと、熊野史岐君や。名前ぐらい覚えときいや」遥はそう言ってから、思いついたように身を乗り出した。「せや、
「巫女? 神社とかにいる、あの?」
「うん」
「見てないですけど」曽根、と呼ばれた部員は大きな目を瞬かせる。「……何でですか?」
「賞金首やさかい」
情報が得られなかったのが面白くなかったのか、遥は
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