【天文×TRPG】ろくろく
薬籠@星空案内人
第1話 脆く儚い世界は砂上の楼閣
私、伊東茜と西澤月の出会いは名前当てから始まった。
とはいえ私は普通にいとうあかねと読むから月の方だ。
「つき?」
「違いまーす」
とりあえず通常の訓読み。
違った。
「ひかり?」
「惜しい」
月の他にも星をひかりと読む場合がある。
これも違った。
「るな?」
「遠くなったよ」
ローマ神話の月の女神。
ひょっとしてひかりと読むより一般的かも。
「あるてみす」
「だからルナは遠いんだって」
同じくローマ神話の月の女神。
でも検討外れだった。
「んー。かぐや」
「これ読むのそんな無理難題かなぁ」
御伽噺ははずれと分かりつつ、他に候補がないのでとりあえず言ってみる。
ひかりは惜しかったんだよね。
なら
「らいと?」
「計画通り。これもう百回やった。違うよ」
振っておいてなんだけど元ネタは知らない。
作品名くらいは知っといた方がいいのかなぁ。
「あ、あかり?」
「それ! 正解」
実のところ
2年生になってクラスが分かれたのが大きい。
高校生にもなるとわざわざ関係を広げるのも億劫なタイプの私からすると、クラス外での唯一交流がある人間だ。
反対に月の方は生徒会をやっているから顔が広い。
私とは正反対だけど、不思議とウマがあって一緒にいて心地良い。
そんな私達の接点は、主に生徒会室になる。
生徒おなやみ相談室
副会長の月が趣味で始めたそれは、今やそれなりの知名度を誇る。
生徒会なんて所詮は体の良い雑用係。
なら、教師よりも女子高生の頼み事を聞きたいということらしい。
ちなみに女子校だから男子は来ない。
今回の依頼は天文部部長からのもの。
既に月とは仲が良いらしく、話はさくさく進む。
「簡潔に言うと、TRPGのリプレイ本を出したいからサポートしてほしい、ですね」
天文部部長の依頼を一言でまとめる。
この悩み相談、主なメンバーは生徒会とその交友関係にある人達で構成されている。
けれど、今日は私と月だけだ。
毎日やってる訳じゃないし、私も毎回参加してはいない。
あんまり参加しない日が続くと月から催促のメッセージが来るからちょくちょく来ているけど、参加率は半々くらいだ。
月に任せると話が脱線するから主に話すのは私。
私がいない時どうしてるかは知らない。
……TRPGってなんだろう。
「TRPGって言うのは、あー。説明難しいな。RPGは分かる? ロールプレイングゲームの方ね」
「分かります」
「じゃあロールプレイは? 知らなかったら考えてみて」
……。
少し考えてみる。
「
勇者なら勇者。
配管工なら配管工。
RPGはそれぞれの役割視点で遊ぶゲームだ。
……配管工がお姫様を救う職業だったかどうかはおいておく。
「私たちは演じる、って言ってるけど、意味はそんな感じで合ってるよ。それで、今思い浮かべたゲームって、機械を使ってプログラム言語で動かしているものであってる?」
「はい」
スマホでできるタイトルも多いし、携帯、据え置きに関わらず人気のジャンルだ。
「TRPGは、それを機械を使わずにやるんだ」
実際にはチャットツールとか色々使うけどね、と前置きして、天文部部長が言葉を続ける。
「TRPGのTはテーブルトーク。テーブルを囲んで皆で話し合いながらストーリーを作って行くんだ」
正直そこまで正しく認識できたとは思えないけれど、机を囲んで話し合う遊び、というのは間違いないはずだ。
「二点、質問があります」
「なんでも聞いてくれ」
「何故、天文部が?」
話を聞く限り、天体に関する遊びではない。
天文部のメンバーで遊ぶ事に関して特にどうということはない。
けど、それを生徒会に頼む意図が分からない。
「よくぞ聞いてくた」
少しだけテンションを上げた部長が得意気に語る。
よっぽど良いことなんだろう。
「国立天文台は知ってるかな?」
「確か……、すばる? という望遠鏡がありますよね。ハワイにあった気がします」
「お、結構知ってるね。天文部入る?」
「茜をとったら流石におこるよー」
月の間の抜けた声が聞こえた。
私としても二年のこの時期に部活を始める気はない。
「すみません。他は全然知らないです。そう言えば国立なのにハワイなんですね」
別に国の施設が海外にあっても良いとは思うけど、それなりの理由があるはずだ。
「標高4200メートル。富士山よりも高い位置にある。マウナケア山の山頂はいろいろ星を見る条件が整ってるんだ。日本を含めて11の国がマウナケアに望遠鏡を持っている」
さすが天文部。
今まで知りもしなかった知識がどんどん出てくる。
「それで、その国立天文台がTRPGを開発したのさ。元からTRPGはたしなんでたから、私達の時代きた、と思ったよ」
時代とまで言いきった。
なかなかの熱量をもっている。
でも、それならなおさら
「どうして、依頼という形に?」
月に頼むだけなら友達として頼めばだいたい引き受けてくれると思う。
元から仲が良い様だし、なんで普通に頼まないんだろう。
「よくぞ聞いてくれました」
今度は力なく笑う。
なにか不都合があるらしい。
「日本語版はまだ実装されていないんだ」
……国立天文台開発(英語)。
確かに、少しハードルが高いのも分かる。
「高望みだがネイティブレベルの英語力を持っている人を紹介してほしい。生徒会なら優秀な人集まっていると思って」
「引き受けました。茜、一緒にやろ!」
答えたのは月。
なんでも引き受けちゃう月が暴走しないように私が受け答えをしていたのだけど、現状効果はない。
というかなんで知ってる。
「何を隠そう、ここにいる伊東茜は英語で学年一位の猛者なのです」
だからなんで知ってる。
月とは勉強の話はしないし、廊下に順位が張り出されてる訳でもない。
というか順位なんて概念はないはずだ。
……毎回満点なら一位は確定しているから嘘ではないけれども。
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